第65話頼もしき合流者


「あ、貴方は……!?」


 プリマシア王女様が自分の前に現れて助けてくれたフィリムさんに戸惑いの声をもらす。感謝の気持ちは勿論、あるだろうが、いきなり現れて魔物を斬り捨てた相手に対して驚きが勝ってしまうのは戦い慣れしていない王女様には仕方がないことであろう。


「御身がどのような身分かは存じませんが、魔物に害されるのを見過ごすワケにはいきません」


 フィリムさんは剣を構えて魔物たちを威嚇しながら、王女様にそう告げる。そこで私はようやくその場に駆け付けることができた。


「フィリムさん!」

「おう、アルメ。遅れてすまなかったな」

「いえ……来てくれて嬉しいです。とても心強いです」


 私の言葉は偽りのない本心だったが、フィリムさんは照れくさそうに少し視線をそらす。


「よせよ。私はそんな大した者じゃない。救世主のお前と違ってな」

「そんなことはありません。王……エレジア様を助けてくれて、ありがとうございます」

「そ、そうだわ……フィリム、というのかしら? アルメティ……アルメの知り合いみたいだけど、私を助けてくれてありがとう」


 思わず王女様と言いかけて偽名を言い直した私と、私のことをアルメティニスと言いかけて偽名を言い直した王女様が、フィリムさんに礼を言い、彼女はフッと微笑んだ。まぁ、私が先代聖女アルメティニスであることはフィリムさんには打ち明けているので王女様が言い直す必要はなかったのですけど。


「エレジア様!」

「大丈夫ですか!」


 遅れて喫茶店の中から王女様の護衛の人たちが飛び出してくる。遅い……と思ってしまうが、彼らもいきなり護衛対象の王女様が店を飛び出してしまったので反応が遅れてしまったのだろう。王女様もいきなり外に飛び出した私の身を案じて出てきてくださったのでそれを責めるつもりもない。今、護衛の人たちがきたのなら王女様の身はもう安心だ。


「エレジア様。この場は私たちに任せてください。御身は護衛の人たちと共にここで……」

「ええ……そうね、アルメ。私はただの足手まといみたいだわ。貴方は、凄く強くなったのね」

「いえ、そんなことは……」


 私はまだまだ弱い。フィリムさんや竜の女の子たちと比べればまだまだ、だ。それでもそう言っていただけるのは嬉しい。


「アルメ。お前の過度な謙遜はいつものことだから今更何も言わないが、とりあえず魔物たちを蹴散らすぞ、チビたちも……」


 フィリムさんがそう言って視線を向けると、私と共に魔物と戦っていた竜の女の子三人も道を阻む魔物たちを倒し、私のそばに駆け寄ってくれた。


「アルメお姉ちゃん!」

「アルメ」

「もう! アルメ様ったら。いきなり喫茶店の方に飛び出すんですもの!」


 三人と連携して戦っていたのに、それを崩して王女様の元に駆け付けてしまったのは私の落ち度だ。素直に私は謝罪した。


「ごめんなさい。みんな。私が短慮だったわ」

「今後は気を付けてくれよ、お姉ちゃん」

「ミスラにどうい」

「アルメ様のご友人の身も大切ですが、わたしたちにはアルメ様も大切なのですよ」


 少し唇を尖らせて三人が言うのはそれだけ私の身を案じてくれている証だろう。なので嫌な気はしなかった。


「本当にごめんなさい。でも、もう大丈夫よ。みんなと一緒に戦うから」

「そうだな! ミスラたちに任せろ!」

「アルメにはゆびいっぽんふれさせない」

「お任せあれ! アルメ様!」


 私の言葉に三人は笑顔を返すと魔物たちと向き合う。「慕われていることだ」とフィリムさんの声がした。


「チビたちはお前のことが大好きなんだな」

「そ、そんな……フィリムさん、からかわないでください」

「事実を言っただけだが……と!」


 私たちのやり取りを長々と黙って見ている魔物たちでもないようだ。飛び掛かってきた魔物の一匹をフィリムさんは剣で斬り裂く。


「きたな!」

「やるよ、ミスラ、リルフ……アルメをまもる」

「当然ですわ、エス!」


 ミスラちゃんとエスちゃんとリルフちゃんも迫りくる魔物たちと戦いを再開する。


「三人とも! 私はいいから町の人たちを守ることを考えて!」


 そう言いながら私も手をかざし、魔物たちに光の波動を放った。光が魔物の一匹の体を貫く。


「ほう……アルメ。いつの間にそんな芸当を」


 私のこの戦い方を初めて見るフィリムさんは少し驚いた様子だったが、すぐに切り替えたようで剣を振るって魔物たちに突っ込んでいく。

 私のこの力は召喚術で幻獣さんを呼び出さずとも戦える力でこれまでの幻獣さん頼りな戦い方を革新できるものだが、それでも、性質上、後方で戦うことに変わりはない。前で戦ってもらうことになる竜の子たちやフィリムさんには申し訳ない気持ちは消えないものの、無理に出張って足を引っ張ってしまうくらいなら後方からの援護に徹して役に立てる方が遥かにいい。


「やりましょう! ミスラちゃん、エスちゃん、リルフちゃん、フィリムさん! 私たちで町の人たちを守るんです!」


 自分自身を鼓舞する意味も込めて私はそう声を上げるのだった。

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