第63話再びの戦い、目覚める力


「くっ……!」


 喫茶店から外に出た私はすぐに異常に気付く。王都は伊達に王都なのではない。外周には城壁が築かれていて、外から魔物が襲撃する場合はそれを乗り越えてくる必要がある。すなわちいかに大量の魔物が一斉に襲ってきたとしてもこの比較的、王都内部に位置する商店エリアのところまで一気に乗り込まれることはないはずなのだが。


「空から……魔物たちが……」


 攻めてきた魔物たちはなんと全てが空からの襲撃をかけていた。目線を上に向ければ、大量の翼を広げた魔物たちが蒼天を埋め尽くす光景が見えて、なんともおぞましい。これだけの空戦型の魔物が一斉に動くこと自体、普通はありえないというのは私でも分かるが、それ以上にありえないのは。


「空を飛べない魔物も空を飛ぶ魔物に運ばれて……?」


 狼型の魔物など本来は飛行能力を持たない魔物たちが空飛ぶ鳥型の魔物たちの脚に運ばれて、空からの侵攻を仕掛けてきているということだ。こんな魔物たちが連携しての侵攻など私の知る限りでは歴史にないことだ。


「お姉ちゃん!」

「おどろいてるばあいじゃない」

「アルメ様!」


 そんな私に竜の女の子たち三人が声をかけて、私の気を現実に引き戻す。そうです。今は魔物たちがありえない戦法を取ってきたことに驚いている場合ではありません。現実に魔物たちが王都内部に侵入した。その事態に冷静に対処しなければ。

 魔物たちは既に王都内部で人々を襲っている。突如、現れた魔物たちに穏やかに日常の買い物を楽しんでいた人々はパニックになり、逃げまどっている。


「三人とも! 王都の人たちを守って!」


 私は竜の子たちに指示を飛ばす。それを聞き、竜の子三人は駆け出して、魔物たちと戦う。


「この!」


 ミスラちゃんの足が振るわれ、狼魔物を蹴り抜く。その隙にもう一匹の狼が飛び掛かろうとしたが、エスちゃんが腕を振るい、起こした風刃でその体は引き裂かれた。リルフちゃんも前に出て風刃を起こして魔物たちを攻撃する。

 流石は外見は幼くみえても竜の子たちだ。この程度の魔物たちに後れは取らない。一方で、私は、というと。


(この市街戦では……大型の幻獣さんは呼べない……!)


 市街を舞台にした混戦の模様をかもし出している戦場を前に混乱していた。町中を舞台にした戦いなどこれまでほとんどなかった。これまでの戦いで私が召喚術で力を借りていたグリフォンさんもサラマンダーさんもこの市街地ではとても呼び出せるものではない。かの巨躯を誇る幻獣たちがこの場で力を振るえば魔物たちは倒せても家々に大きな被害を出してしまう。それでは何も意味がない。魔物に家を壊されるのも、それを守るために戦って家を壊されるのも、なんの違いがあるというのか。


(じゃあ……私はただの足手まとい?)


 その事実に歯噛みする。私の能力は召喚術を使って幻獣さんを呼び出して、その力を借りるだけのものだ。幻獣さんが呼び出せない状況では何もできない。

 ただのか弱い小娘に過ぎないのだ。事実は事実なので変えようがなく、目をそらしても仕方がないのだが、本当に自分の力不足が恨めしい。


(あの子たちは前で戦っているのに……!)


 ミスラちゃん、エスちゃん、リルフちゃん。竜の子たちは町の人々を守るため魔物たち相手に果敢に戦っている。それを後ろで見ているしかできないのか、私は。


「お姉ちゃん! 危ない!」


 そんな中、ミスラちゃんがこちらを振り向いて叫んだ。ハッとして私は体を横に転がす。

 先程まで私がいたところに豹型の魔物が飛び掛かっていた。後一歩遅ければその爪と牙は私の体を引き裂いていただろう。


「くっ……!」


 ミスラちゃんたちとは距離が離れすぎている。気付いた彼女らはこちらに駆け寄ろうとするも瞬時に駆け付けられるものでもない。私は目の前で姿勢を立て直し、こちらを睨む豹を前に身構える。グルル、と唸り声を上げる相手に恐怖心を感じるがそれを押し殺す。

 気弱なところを見せればすぐにも攻撃される。それが分かっていたからこそ、こちらも虚勢を張って相手を威嚇していたが、長く続くものでもない。

 再び豹は私に向って飛び掛かる。


「きゃ……!」


 なんとか回避しようとした私だが、爪が私の左腕を掠めて、服とその下の肌身を浅く斬り裂き、鮮血が散る。さらなる追撃が私に迫った。私は反射的に右手を前に出したが、それでどうにかなるものではない。単なる小娘の貧相な腕でこの獣を倒せるワケがない。

 だが。


「ガオ!?」


 私が付き出した右手から閃光が放たれて豹の魔物の体を貫いた。堪らず豹は後ろに吹っ飛び、そのまま道路を転がる。い、今のは……!?


「お姉ちゃん! 大丈夫か!?」

「え、ええ……ありがとう、ミスラちゃん……」

「いや、ミスラは何もしていないし……」


 駆け付けてくれたミスラちゃんに感謝の言葉を述べた私だが、彼女の言う通りだ。今、豹を撃退した力はミスラちゃんが何かやったワケではない。私の手から放たれたものだ。


「今のはお姉ちゃんがやったのか! やっぱりアルメお姉ちゃんは凄いな!」

「そ、そうなのかしら……」


 自分の右手をまじまじと眺める。自分でも信じられない、と思っていた時、記憶が蘇る。


(そういえば最初にミスラちゃんたちと会った時……)


 あの時の私は幻獣さんを召喚せず、その力の一部だけを使ったかのように悪漢を撃退した。まさか、その時と同じことができたというのか。

 そんな考えを巡らせる時間はなかった。すぐに他の魔物たちが寄ってきて、私とミスラちゃんを包囲するようにしたからだ。


「お姉ちゃん!」

「大丈夫……ミスラちゃん。今なら私もできると思う」


 自信はないが、こうなった以上はやるしかないだろう。これまで避けていた私の白兵戦。それを今、やるしかない。やらなければこの町を守れないし、私自身の身すらも守れない。ならば不確かな力とはいえ、使ってみるしかない。


「かかってきなさい……! 私も救世主なんて称号に名前負けするつもりはないです……!」


 そう言って魔物たちを睨む私だった。

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