第60話元・聖女とお忍びの王女様のデート
率先して私を案内し、手慣れた様子で近くの喫茶店に入ったプリマシア王女に護衛の人たちは勿論、私も少し困惑して続く。当たり前のように喫茶店を見つけて、中に入ったけれど、街歩きを慣れているのだろうか。失礼ながら、私が聖女であった頃に王女様と接していた時は王女様も私と同じ、箱入り娘であまり王宮から出たことはない印象を受けていたのだが。
「なんだか慣れていますね」
だから私は思わず口にしてしまっていた。最初、何を言われたのか分からないというようにキョトンとした王女様だが、すぐにイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「あら、女の子を喫茶店に連れ込む手口が、ってこと?」
「い、いえっ。そんなことは……!」
「ふふ、分かっているわ、アルメティニス……じゃなくてアルメ。私が喫茶店とかを堂々と使うのが意外ってことでしょう」
慌てる私に対して、笑う王女様の顔を見て、冗談だと私はすぐに気付く。
そして、王女様が言ったことはその通りだったので無礼ながら首肯する。
「私もここ最近は城下に出ることが多かったから。あ、私のことは人前ではエレジアって呼んでね。貴方のことをアルメと呼ぶのと同じように」
城下に出ることが多かった……何故でしょう。やはり、ここ最近の情勢の変化が影響しているのでしょうか。
「分かりました。貴方のお名前を町中で出すのはマズいですからね王女……ではなく、エレジア様」
「そういうことよ。仮面の救世主、アルメ」
腹の中は分かっていると笑う王女様。
私が今は聖女、いや、元・聖女アルメティニスではなく、冒険者ギルド、ドラゴン・ファング所属の謎の召喚術使いのアルメであるように今は王女様もプリマシア様ではなく、謎の令嬢エレジア様ということか。
「むー、アルメお姉ちゃん、このお姉ちゃんと知り合いなのか?」
「ずいぶん、したしそう」
「……少し妬けてしまうのですが」
そんな風に私と王女様が話している様子を見て、竜の女の子たち三人が声をかけてくる。少しだけ不服そうだ。リルフちゃんに至っては直接、言葉にしている。ひょっとして、嫉妬してくれている? いや、この子たちの性格を考えれば嫉妬なんてどす黒い感情ではないか。それでも、私と親しそうな人が現れたのを見て、気にしてくれる程度には私のことを想ってくれているのはありがたいことであった。
「ふふ、そんなに気にしなくていいわ。この人は……エレジア様は……私の友人だから」
私ごときが堂々と王女様を友人と称するのは無礼かとも思ったがそれが私の心の内を正直に表した言葉だったので口に出す。王女様も微笑んだ。
「ごめんなさいね。お嬢さんたち。貴方たちの大事なお姉さんを取っちゃったみたいで」
「む、ミスラたちは別にそんなことを思っては……」
「……ない、ともいえない」
「ですわね」
ミスラちゃんが顔を赤くするが、エスちゃんとリルフちゃんが相次いでそう言い、否定の句を告げずに黙り込む。
とはいえ、王女様のあたたかな笑みを前にしては王女様に文句を言うワケにもいかないという感じだ。
「……エレジア様。私とこの子たちの関係をご存知で?」
「いいえ。でも、態度を見ていればなんとなく分かるわ。貴方がこの子たちに慕われているってことくらいはね」
「見事なご慧眼です……」
思い上がりかもしれないが、ある程度はこの子たちに慕われている自覚がある身としては王女様の言葉は素直に嬉しかった。
「まぁ、貴方たちも座りなさいな。今日は私のおごりよ、と一般には言うのですね」
「そ、そんな王……エレジア様にお代を払っていただくなんて!」
とんでもない! と私は慌てるが……。
「わーい、お姉ちゃんのおごりだな!」
「ありがたく、ごちそうになる」
「では、早速、オーダーを出させていただきましょう」
現金な子供たちは無邪気にはしゃぎ、嬉々として椅子に座る。ああ、王女様に対してなんて無礼な……。この方はこの国、アルカコス王国の王女様なのだと口を大にして伝えたかったが、周囲に人が多くいる状況でそれをやってしまえば私の方が無礼だ。ですが、私たちの席の近くに座って不自然には見えないレベルでこちらに注意を払っている王女様の護衛の人たちの顔もなんだかピクピクしていますし……。
「さ、三人とも……。エレジア様にあまり粗相のないように……」
「構わないわよ、アルメ。子供はこのくらい元気でないとね」
王女様がこう言って笑ってくださるのが救いではあった。
「アルメ。貴方も色々注文しなさいな。積もる話もたっぷりあるんだし、長くなりそうでしょ?」
「それは……はい。そうですね」
今の現状を考えればこの国に訪れようとしている危機とその対策を第一に話し合うべきなのだろうが、王女様の言う通り、積もりに積もった話も沢山あった。
竜の女の子たち三人やギルドの先輩冒険者フィリムさんが話相手として不満なんてことは勿論、ないのだが、やはり昔からの私を知っている王女様相手だからこそ話せること、話したいことも多いからだ。
注文を取りにきたウェイトレスさんにそれぞれオーダーを出して(竜の女の子たちは遠慮なくたっぷり頼んでいた。飲み物だけではなく、定食セットまで、だ。私はまた慌てたが、王女様は気にしないで、と笑っていた)運ばれてくる間にとりあえず、周りに聞かれてもマズくない程度で私は王宮を追放されてから何をしていたかということを王女様に話し始めるのであった。
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