奇跡を失い追放された聖女。古の最強召喚術を得て竜の幼女らと百合しつつ救世主に！

第57話仮面の救世主の情報収集と意外なる遭遇

「どうした、アルメお姉ちゃん？」

　ミスラちゃんからかけられた声に私はハッとする。少し思考に囚われていた。

「いえ、なんでもないわ。ちょっとイルフィさんが言っていたことが気になってね」

「イルフィ様はこの国に起こっている全てのことがなんらかの災いの意思によるものだと仰っておりましたね」

「ええ」

　イルフィさんはそう持論を述べていた。私が聖女の力を失って追放されたのも、代わりにミスティアが聖女の力を得て聖女になったのも、その裏でゴルドバーグ公爵が暗躍し、王国内で権力を握ろうとしているのも、それが王国全土の魔物たちの凶暴化を招き町や村の脅威となっていることも。

　全ては何らかの意思によるものだと、イルフィさんは語っていた。

　それは本当だろうか、と半信半疑ながらも今は私と竜の女の子三人はアルカコス王国王都内を歩いて、情報収集に努めている。

　勿論、今の私は仮面を付けて、だ。

　立場上、あまり人の集まるところにはいけないのだが、かといって人がいないところでは情報も何もない。情報というものはいつの世も人間が運ぶものだからだ。

「アルメ、めずらしいね」

「え？　何がかな、エスちゃん」

「せっきょくてきにそとにでるなんて」

　率直な感想をエスちゃんに言われる。そんな屋内に籠ってばかりいるように言われるのは、と思うが、たしかに私がこうして自ら外に出て何かをするというのは聖女の座を追放された後では珍しいことだ。聖女の座を追放された私は王都からの追放命令も受けているのだ。そんな私が堂々と王都内を出歩けるはずがない。それもあって、ギルド・ドラゴンファングの厄介になった後も必要最低限の外出しかしないようにしていた。

　いや、聖女だった頃もこんな機会は少なかったか。王城の敷地内にある聖女の塔に籠りきりで、式典などや聖女の力が必要になる何かがなければこうして町に顔を出すことなどなかった。

「……そうね。珍しいことかもね」

「いいじゃないか。外を走り回るのはミスラも好きだぞ！」

　純粋無垢な笑顔でミスラちゃんが言う。私は少し日焼けしてなさすぎるだろう。聖女になる前、田舎村に住む田舎娘に過ぎなかった頃はまだ外を出歩いていたと思うが。

「……ですが、どうしてわざわざアルメ様がこうして情報収集なんて」

　それがさっきから疑問だった、と言うようにリルフちゃんが呟く。

「あまりアルメがそとにでるのはよくない」

　同意するようにエスちゃんもそう言った。竜の子たちも私の事情は分かっているのだろう。私自身、こうしてあまり外出するのはマズいとは分かっているのだが。

「……私も少しでも何かをしてみたいと思ったから」

　そんな二人の疑問に私は答える。ギルドに籠って、安全圏でのんびりしているだけではダメなのだと今になって気付かされたのだ。この世界に迫りくる危機を目前にした今になって。今更、遅すぎることではあるのだが、今後も私がのんびりしていることで全てが手遅れになってしまうかもしれない。それだけは絶対に避けたい。なら、多少危険であっても外に出て行動を起こすことで何かを掴める可能性のある道を進むべきだろう。

　私が多くを語らずともそんな想いを汲み取ってくれたのか竜の女の子たち三人が微笑む。

「それはいいことだな！」

「うん、アルメ」

「アルメ様のお決めになったことならわたしに異論などありませんわ」

　そんな三人に私も微笑み返した、のだが、今は仮面が私の表情を覆い隠してしまってそれは見えなかっただろう。

　この仮面を付けないとロクに町中も出歩けない立場だ。

「おい、あれって？」

「ああ、仮面の救世主様だよな……」

「あのドラゴンファングの看板の？」

　私を遠くから見ている人たちがひそひそと語るこえが聞こえる。

　仮面を付けている姿も喜ぶべきか悲しむべきか、それなり以上に有名になってしまっているのでこれはこれで困るのだが。

「やはり視線を感じますね……」

「ははは！　アルメお姉ちゃんは救世主だからな！」

「しかたがない」

「皆様、アルメ様のことを称えているのですわ」

　竜の女の子たちはそんな王都の人たちの反応にも悪からぬ感想を抱いているようだが、必要以上に目立ってしまうという点ではやはり都合が悪いことだ。

　とはいえ、エスちゃんの言う通り、仕方がないことだ。目立つのが嫌なら始めからギルドに籠って出てこなければいい話だ。

　そう思いつつ情報収集を続けようとした私は我が目を疑うことになった。

「え……？」

　思わず声が出る。どうかしたのか、とばかりに竜の子たちは私を見上げる。

　声も出るし、目も疑うだろう。だって、私に視界の先に……。

「プリマシア……王女様……？」

　聖女だった時期に親しい付き合いをしていたこの国の王女様の姿が見えたのだから。