第36話ギルド同士の決闘

 かつて門前払いにされたギルド『グローリー・ガーディアンズ』。そこが今、私のいるギルド『ドラゴン・ファング』に決闘を申し込んできたという。

 それも決闘相手には私を指名して。

 このことをグローリー・ガーディアンズは新聞に情報として流したらしく既に王都では騒がれることになっていた。

 自分のことで王都が騒がしくなるなんて聖女だった頃のようだ。下手に目立って正体がバレたくはない私としては勘弁願いたかったが、既に時遅し。

 王都最大最強のギルドのグローリー・ガーディアンズとしてはドラゴン・ファングに所属する謎の仮面の冒険者にヒーローになっていられては立場がないというのは分かるが、それにしても召喚術で呼び出した幻獣さんとも戦って勝つつもりとはいくらなんでも強気すぎではないだろうか。

 奇跡魔法を失った私が何故か使えるようになった古の召喚術。それで呼び出される幻獣さんの力は強力無比だ。

 いくらグローリー・ガーディアンズが最強ギルドでその中でも最強の剣士が出てくるとはいえ、とても勝てるとは思えない。

 いや、勝てる以前にまともな勝負にすらなるかどうか。私も恨みもないし、人々を危機に陥れるワケでもない相手を殺したくはないのだが、幻獣さんの力は強大すぎてあっさり殺してしまうかもしれない。それを果たして制御できるのか。


「困りました」


 決闘の前日。ドラゴン・ファングの食堂で私はフィリムさんに相談した。

 フィリムさんは手羽元を豪快にかじりながら、私の言葉に応えた。


「ふん。グローリー・ガーディアンズのアレクセイがいかほどのものか。一蹴してやればいい」


 豪胆な性格の女戦士であるフィリムさんらしい意見であった。

 しかし、私としてはそうざっくらばんに割り切ることはできない。


「幻獣さんの力だと殺してしまうかもしれません」

「そんなのあっちも覚悟の上だろ。決闘を仕掛けてきているだけじゃなく、召喚術を使ってもいいって先に言ってあるんだから」

「……グローリー・ガーディアンズの人たちが幻獣さんの力を正確に把握しているかどうか怪しいものです」


 幻獣さんの力を知っていれば、間違っても決闘を仕掛けてこないと思う。それもフィリムさんの言う通り、事前に召喚術を使っても良いと条件付けして。

 グローリー・ガーディアンズの人、もっと言えば決闘をする最強剣士というアレクセイは幻獣さんの力を低く見積もっているのではないだろうか。


「アルメ様のお力を知っていれば普通こんな決闘など仕掛けてはきませんね」


 竜の女の子三人の内、一人、リルフちゃんもそう言う。その通りだ。こんな小さな女の子でも分かることだ。竜の子は見かけとは違って実際は私より遥かに年上なのだが。


「ほんものの勇者か馬鹿のどっちか」

「アルメお姉ちゃんの力で返り討ちにしてやればいいじゃないか」


 エスちゃんも辛辣な言葉を言い、ミスラちゃんはフィリムさん同様に気楽そうなことを言う。


「グリフォンさんだと空からの強襲で鎧を着ていても鎧ごと引き裂いて殺してしまうでしょうし、サラマンダーさんは焼き尽くしてしまいます。ペガサスさんでもボール・ライトニングさんでも普通の人間で相手になるとは思えません」


 私はこれまで自分が呼び出した幻獣さんたちの力を思い浮かべて懸念を示す。

 どの幻獣さんにも人間の戦士が対抗できるとは思えない。


「まぁ、それはそうだろうな」


 私の言をあっさり肯定するフィリムさん。


「とはいえ、それはあっちも覚悟の上だろう。お互い合意の『決闘』ならば相手を殺してしまっても罪にはならない」

「それはそうなんですが……」


 たしかにこの国の法律で互いの合意の上での決闘であればその結果がなんであれ、罪が発生するワケではない。

 だからといって必要性もないのに相手を殺してしまう恐れがあるのを気にせずにいられるかというと話は別だ。


「勝手な話ですまないが、この決闘でアルメが勝てばウチのギルドの名もさらに上がる。アルメは救世主として有名になっているが、その力が本物か疑っている者もまだ王都にもいるようだしな」

「私は自分の力を誇示するつもりはないのですが……」

「それは分かっているさ。お前の性格ならな。まぁ、出るだけ出てくれないか? 相手も実際に幻獣を見たらビビッて逃げるかもしれない」

「そうですね……」


 決闘を申し込まれて、そのことを既に新聞などに喧伝され、ここで私が出ないと私だけではなく大恩あるギルド『ドラゴン・ファング』の名誉にキズが付くことになる。出ないワケにはいかない。


「分かりました。なるべく平和的になるように心がけます」


 私は決闘への参加を決意した。



 そして、決闘の日。

 決闘場所として指定された王都の大広間には既に見物客が大勢集まっていた。


「緊張しますね」


 大勢の人の前に出るのは聖女だった時にも経験があるとはいえ、なかなか慣れるものでもない。


「アルメお姉ちゃんなら大丈夫だ!」

「ざこはけちらして」

「アルメ様のお力を見せ付けてあげればよいのですわ」


 竜の女の子三人も応援してくれている。フィリムさんも一緒だ。

 そうして決闘場所に出るとグローリー・ガーディアンズの最強剣士、アレクセイが立っていた。


「おや、仮面の救世主とは君のことだったか。幼い女の子三人を連れたか弱い少女」


 ニヤリ、と笑みを浮かべるアレクセイ。仮面を付けているが以前、門前払いにした女であることはバレたようだ。

 流石に元・聖女だとはバレていないと思いたいが。


「私はともかく私の召喚する幻獣さんと戦うなんてハッキリ言って無謀だと思いますけど……降参してくれませんか?」

「戦う前から降参などできるワケがないだろう。随分と傲慢なことだ」


 傲慢なのはどっちだろう、と思うが、こうなってはやはり退ける話ではない。


「それでは決闘をさせていただきます」

「いいとも可憐なお嬢さん」


 こちらのことを舐め切った目で見るアレクセイ。単なる自信過剰かそれとも幻獣さんに対する秘策でもあるのか。

 そして、決闘は始まった。

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