第35話かつて自身を門前払いしたギルドからの決闘申し込み

 クレールの村に行っての山の魔物討伐。それを終えて王都に帰還した私たち。

 今や住み慣れたギルド『ドラゴンファング』に戻るとギルドマスターのイルフィさんから呼び出しがあった。


「やあ、みんな。お疲れ様。依頼達成だってね」


 イルフィさんはやはり竜の女の子三人と変わらないような幼い姿である。フィリムさんが「はい」と頷いた。


「今回もアルメのおかげで楽に依頼がこなせました」

「そうなんだ。アルメ、凄いね」

「い、いえっ。私なんかは……」


 イルフィさんに言われて思わず恐縮してしまう。

 私が直接戦ったワケではない。私は召喚術で幻獣さんを呼び出して、幻獣さんに戦ってもらっただけなのだから。

 前線で戦ったフィリムさんや竜の女の子三人と比べて誇れるものではないと思う。

 そんな私の思惑を読み取っているかのようにイルフィさんは笑う。


「謙遜しないでいいよ。どうせ召喚した幻獣が強かっただけで自分は大したことないとか思っているんでしょ?」

「は、はい」

「でも、幻獣を呼び出せるのはこの世界では今のところアルメ一人だけなんだから。凄いことなんだよ」

「そうでしょうか……」

「ギルドのメンバーの活躍はボクにとっても嬉しいよ。君は立派なギルドの一員なんだからね」


 ニッコリと笑うイルフィさん。私は恐縮してしまう。


「ギルドマスターはアルメお姉ちゃんの力を分かっているんだな!」

「とうぜんのこと」

「アルメ様のお力は凄いですからね!」


 竜の子三人もそう言ってくれるが、やはり私は自分自身がそんなに凄いとは思えないのだ。


「……あ、そうそう。少し面倒臭いことになっちゃったのは教えないといけないかな」


 不意にイルフィさんの表情が真剣なものになる。なんでしょうか。新しい依頼でしょうか。


「ギルド『グローリー・ガーディアンズ』がウチの『ドラゴン・ファング』に決闘を申し込んできていてね」

「えっ?」


 その言葉に私は驚く。グローリー・ガーディアンズと言えば……。


「グローリー・ガーディアンズ!? そこはアルメお姉ちゃんが入ろうとして……」

「もんぜんばらいされた……」

「見る目のない方々の所ですね」


 竜の子たちの言う通りだ。グローリー・ガーディアンズ。この王都の最大ギルドにして、最初に私が所属しようとして非力な小娘に何ができる、と追い出された所だ。


「ほぉ、そんな経緯があったのか。あそこの奴らも見る目がないな。アルメほどの者を門前払いとは」


 フィリムさんが腕を組んでそう言う。このギルドに来る前に別のギルドに入ろうとしていたことはこのギルドの人たちに話しにくく、黙っていたことだ。


「すみません。隠していて」

「いや、別に私は構わないさ。ギルドマスターもそうですよね?」

「うん! 全く気にしていないから大丈夫」


 申し訳なく頭を下げる私だが、フィリムさんは快活に笑い、イルフィさんも笑みを浮かべた。心の広い人たちで良かった、と思う。


「それでそのグローリー・ガーディアンズが……決闘?」


 改めて私はイルフィさんにたしかめるように訊ねる。ギルド同士で決闘なんてあまり聞かない話だ。


「珍しい話ですね。マスター。私もこんなこと初めて聞きます」


 フィリムさんにとっても驚きのようだ。いまひとつ理解できないという顔でイルフィさんを見る。


「うーん。なんでもアルメのこと……仮面の救世主が現れて話題をウチのギルドが持っていったのが気に入らないらしくてね。仮にもこの王都最大のギルドだからね。あっちは」

「なるほど……」


 王都最大最強のギルドと称しておいて、別のギルドのメンバーが救世主と騒がれている。それは面白くないことだろう。だが。


「それで決闘……ですか?」

「うん。アルメとあっちの最強剣士アレクセイを戦わせろ、って言ってきている」

「アレクセイ……」


 たしかグローリー・ガーディアンズに行った時に会ったことがある。グローリー・ガーディアンズの中でも最強の剣士である美男子。その男が私を口説こうとしたのは苦い思い出だ。

 美男子であるが、その内面にはあまり良いものがないと私は本能的に思った相手だ。


「そう言われても私、剣なんて振るえませんよ」


 イルフィさんに抗議するように言う。そもそも剣も槍も弓も使えず、召喚術を隠していたため、魔法も使えないからとギルドを門前払いされたのだ。今はここドラゴン・ファングに来て止むを得ず、召喚術を行使したことで王都に現れた仮面の救世主などということになっているが。


「それがあっちはアルメに召喚術を使ってもいいって言ってる」

「ええ!?」


 驚きの声を上げてしまう。私が召喚術を使っていいと言うのなら相手は幻獣と生身で戦う気なのか。正気のことではない。


「そんなことしたら死んじゃいますよ、アレクセイとかいう人が」

「うーん。ボクもそう思うんだけどね。相手はなにがなんでも戦え。拒否したら逃げたとみなすって言って、しかもそのことを新聞に言っちゃったらしいんだ」


 なんてことだ。既に決闘をすると既成事実を作っている。これではこちらが決闘に出なければドラゴンファングは負けるのが怖くて逃げだしたことになり、評判はがた落ちだ。


「とにかく相手してくれないかな。幻獣を呼び出してみればあっちはビビッて逃げるだろうし」

「そ、そう言われても私に幻獣さんを制御できるかどうか……」

「アルメならできると思うよ」


 笑みを浮かべてイルフィさんは言う。

 これはまた大変なことになりましたね……。

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