第30話お風呂場騒動
「あんまりお風呂大きくない……」
脱衣所で服を脱ぎ、浴室に入るとミスラちゃんが最初に発した一声がそれだった。
「むぅ」
「狭いですね」
エスちゃんとリルフちゃんも不満を述べる。ミスラちゃんはともかく比較的クールな二人にしては珍しい。
「あ、あはは……王都の高級宿ってワケじゃないからね」
私は擁護するように口にする。そこまで狭いという程でもないと思うが、湯舟は大人二人が入ると窮屈さを感じてしまいそうな広さで、洗い場も広々としているとは言い難い。
とはいえ、それも仕方がない。ここは寒村……という程ではないにせよ、温泉宿などではなく、観光地でもない。
あまり大勢の人がこの村の宿屋に泊りに来るとは思えず、それならあまり多くの人が利用するワケでもない設備にお金をかけるのは非合理的なことだろう。
なお、私はバスタオルを巻いて胸から下を隠しているが、竜の女の子三人は何もまとわずすっぽんぽんだ。平坦な胸やくびれもなにもない腰のラインやふくらんでないお尻は人間の女の子の子供の裸そのもの。私より遥かに歳を重ねている竜とは思えないものがある。
そして、いくら同性しかいない場とはいえ、隠すところは隠した方がいいのではないだろうか。なんだか少し気まずい。
「アルメ、何を恥ずかしそうにしているの?」
そんな私の心境を読み取ったようにエスちゃんが私を見上げる。
「そうですね。タオルなんて巻いて。ここは裸の付き合いです。アルメ様の美しいお体をわたしたちに見せてください」
「リ、リルフちゃん……そんなこと言って。私の体なんて大したものじゃないよ……」
美しいお体とかそんなものじゃない。私も15歳の少女に過ぎない。胸もあまり大きくないし、ボディラインだって自慢できるものがあるとは自分でも思えない。そのあたりはフィリムさんの方がよっぽどスタイルがいいだろう。
「ほら! アルメお姉ちゃん! そんなもの脱いでしまえ!」
「きゃっ!?」
いきなりミスラちゃんが私に不意打ちで抱き着いてきたかと思うとその手を伸ばし、私のバスタオルを剥がしにかかる。いや、変な意図はないはず。剥がすなんて表現は不適切……。
「手伝う、ミスラ」
「たまには気の利いたことをしますね、ミスラ」
「ちょ、ちょっと!? エスちゃんにリルフちゃんまで!?」
が、エスちゃんもリルフちゃんも私の体にまとわりついてきて、私のバスタオルに手をかける。や、やめて欲しい。私は同性同士でもあまり裸を見られるのは恥ずかしいと思ってしまうタイプなのだ。
しかし、私のそんな羞恥心は無情にも竜の女の子三人の裸のスキンシップには通用しなかった。バスタオルを剥ぎ取られ、一糸まとわぬ姿になった私の体が晒される。
「きゃっ!?」
「おー、お姉ちゃん、結構、おっぱい大きい」
「そう? あまり膨らんでいないような」
「いえ。二人共、これは美乳と言うのです」
女の子三人で私の胸の品評会はやめてほしい……。年齢の割に控え目なサイズの胸にはあまり自信もないし。咄嗟に両腕を使って胸と股間を隠す私。なんで、私は女性しかいない場所で男の人がいるかのような対応を取ってしまうのでしょう……。
「お姉ちゃん。なんで恥ずかしがる?」
「わたしたちみんなおんなのこ」
「その宗教画に描かれている女神のような裸体を恥ずかしがる必要などありませんよ、アルメ様」
ミスラちゃんが首を傾げ、エスちゃんが淡々と言い、リルフちゃんが大袈裟なことを言う。
いや、宗教画の女神様って……あの手の芸術的な絵画で女性の裸体は定番であるが、いくらなんでもそこまで自分のことを崇高な存在だと思い上がってはいない。私の裸なんて男の人が見てもあまり魅力を感じないだろうに。
「…………」
「…………」
「…………」
「あ、あの、三人共? あんまりそうやって見つめられると恥ずかしいんだけど……」
なんだか竜の子三人の視線が怖い。目に変な色が宿っている気がするのは私の気のせいだろうか。逃げるように私は湯舟に向かう。
「お、お先に失礼……」
「アルメ、かけ湯をしないのはマナー違反」
と、思ったらエスちゃんから指摘されてしまう。そんな人間社会のルール。よく知っていましたね……竜の子なのに。
とはいえ、言われたことはその通りだ。私は桶を探して、視線をお風呂場に走らせるが、
「ミスラがかけ湯してやるぞ、お姉ちゃん!」
「ミスラ! それはわたしの役目!」
何故かミスラちゃんが桶を持っていて近寄って来るかと思えばその背後からリルフちゃんがミスラちゃんを急襲(この言葉でしか表現しようがなかった)。桶を奪い取る。
「何をする!」
すかさずミスラちゃんも反撃。桶を奪い返しにかかるが、エスちゃんまで参戦する。
「それはわたしのやくめ」
「させません!」
桶を死守しようとするリルフちゃん。そこにエスちゃんとミスラちゃんがコンビネーションで襲い掛かる。
あ、あの、いくら、男の人の目がないとはいえ、女の子が裸でそうずったんばったん暴れるのはよした方がいいのでは……。そう思った私だが、三人の勢いに圧されて何も言えない。情けない保護者だ……と自分で自分に呆れる。
「がああああ離せ二人共!」
「離すのはそっち」
「あなたたち! アルメ様の前で礼儀を弁えなさい!」
なんだか物凄く楽しそうにじゃれあっている三人には悪いが私はもう一つの桶を手に取り、湯舟のお湯をすくうと自らの体にかぶる。
うん。お湯が肌身を直接打つ感覚は気持ちいい。山での戦いの疲れも吹っ飛ぶというものだ。
ふと、視線を感じて、濡れた顔を上げれば三人の竜の女の子がポカンとした顔でこちらを見ている。
「あーーーー! アルメお姉ちゃん!」
「なにしてるの」
「アルメ様!」
え、えーっと? 何故、私は何か責められるような目で見られ、糾弾されているのでしょうか?
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