第29話激戦を終えた救世主は竜の子たちとお風呂に
山に登っての魔物の討伐は無事完了。私が呼び出したサラマンダーさんに業炎を噴いてもらい知能レベルが低い魔物でも分かりやすいくらいに脅威を覚えさせた上に主であるデーモンまで倒したのだ。これでしばらくは山の魔物たちも大人しくなって山から下りてきて村を襲うこともないであろう。
私自身が直接戦ったワケではないとはいえ、流石に疲れた。私でもこうなのだから、前線で戦ったフィリムさんや竜の女の子三人の疲れはもっとだろう。
村に戻ったら早く休みたい。村の人たちが宿を無償で提供してくれると言っていたし、ゆっくり休ませてもらうことにしよう。
クレールの村に帰ると私たちは再び歓迎された。
「おお、救世主様。魔物たちの討伐は?」
「はい。山の主である魔物を倒しました。こちらの力も示して、散々に威嚇しておいたのでしばらく山から魔物が下りてくることはないと思います」
「それは素晴らしい! 主まで倒してしまうとは! 流石は救世主様だ」
そう救世主、救世主と褒め称えるのはやめてほしいと私は思うのだが、盛り上がっている村の人たちの熱気に水を差すのもなんなので黙っておいた。
私なんて救世主なんかじゃない。奇跡魔法を失って追放された元・聖女に過ぎない。今回の戦いだって、呼び出した幻獣さんやフィリムさんたちが主に戦ったのであって私は何もしていないどころか足を引っ張っていた可能性もあるのだ。
「そう自分を卑下するな。アルメ」
「え!?」
フィリムさんにいきなり声をかけられて私は驚く。まるで私の心の中を読みとったかのようだ。仮面を付けているので表情から読まれたとも考えにくい。
「どうせお前のことだ。自分に称えられる資格などないと思っていたのだろう」
「……その通りですけど、よくお分かりになりましたね」
「なに。顔は見えずとも立ち振る舞いで分かる。明らかに気まずそうにしていたからな」
そのフィリムさんの洞察眼は凄いと思う。
「お姉ちゃん! アルメお姉ちゃんは凄いんだぞ!」
「もっと、誇ってもいい」
「そうです。アルメ様なくして今回の戦いは勝てなかったのですから」
「みんな……」
ミスラちゃん、エスちゃん、リルフちゃんの竜の女の子三人はそう言って口々に私を称える。
本当に私がそれに相応しい人間かはまだ自信が持てないのだが、とりあえずこう言ってくれるみんなの厚意を無下にはしたくない。
「そう、ですね。ここは誇ることにしましょう」
「それでいい」
私の言葉にフィリムさんは頷くと村のまとめ役のガテュールさんに向き直る。
「時に。今回の戦いで流石の我々も疲弊している。宿を提供してくれるという話だったな? 案内して欲しい」
「はい。勿論です。おい、救世主様がたをご案内せよ」
ガテュールさんに呼び掛けられた若い女性が前に出て一礼すると私たちを先導する。宿はそれなりに大きな規模の村に相応しくそれなりの大きさのものだった。ここなら多分、お風呂もあるだろう。
「王都ほどではないが、なかなかだな!」
ミスラちゃんがそう言って喜びを示す。
「アルメと一緒にお風呂に入れる」
「嬉しいですね」
エスちゃんとリルフちゃんも二人して嬉しそうだ。宿が嬉しいのか、私と一緒のお風呂が嬉しいのか。前者でしょうけど……。
宿では豪勢にも四人部屋を二部屋提供してくれるようだった。
「当然、ミスラはアルメお姉ちゃんと一緒の部屋だ!」
「わたしも」
「不肖ながら、わたしもそう希望いたします」
竜の子三人は全員が私と同じ部屋を希望する。竜の子三人だけで部屋を使って、もう片方の部屋を私とフィリムさんで使う方が気兼ねなく過ごせるかと思ったのだけど、いいのだろうか。
「アルメは人気だな。では、私は寂しく一人で泊まることにするよ」
フィリムさんが苦笑いしながらそんなことを言う。
私と竜の女の子三人は部屋に入る。宿の外観から想像していたが、やはりそれなりのレベルの部屋だ。王都の宿でもこれなら平均以上のレベルには当たるのではないだろうか。
「早速、お風呂だ!」
ミスラちゃんがはしゃいだ声を上げる。
「そう急がなくてもお風呂は逃げませんよ、ミスラちゃん」
私は苦笑いしながら仮面を外す。立場上、仕方がないとはいえ、やはり仮面など付けていては息苦しいものだ。リラックスした気分になれる。
「やはりアルメ様のご尊顔は隠してしまっては勿体ないですね」
「え? そんなことはないわ。リルフちゃん」
なんだかリルフちゃんが褒めるような惜しむようなことを言ってくれるが、そこまでのものでもない、と思う。
「まぁ、さっさとお風呂に入る」
エスちゃんはそんなことよりとお風呂が気になって仕方がないようだった。
「それじゃあ、三人共、一緒にお風呂に入りましょうか」
私がそう言うと三人が元気よく声を揃えて「うん!」と言ったのは少し驚いた。ミスラちゃんはともかく、比較的クールなエスちゃんとリルフちゃんまで。
そんなに私とのお風呂が楽しみなのだろうか? いや、そんなことはないと思うけれど。
お風呂場に向かう私たちであった。
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