第16話召喚雷獣の圧倒的な力
ジャイアント・バクさんが住み家を追われたという隠れ家の洞窟まで案内してもらい峠からだいぶ離れました。
とりあえずジャイアント・バクさんを峠から出て行ってもらうという目的は達成されたことになります。
ですが、ここでジャイアント・バクさんを放置したり、殺したりするような真似はしません。元の住み家に帰っていただくため、元の住み家を占拠したという凶暴な魔物を退治します。
「何故、私がジャイアント・バクを助けているのか……」
呆れている、というよりワケが分からないという風にフィリムさんは声をもらす。私は「当然のことです」と応じた。
「困っているものがいるなら助けないと」
「その精神は素晴らしいと思うがな……」
「あ! こっちだって言ってるよ、アルメお姉ちゃん!」
ジャイアント・バクさんの先導でついにバクさんの住み家だった洞窟に到着します。が、中を覗き込めば真っ暗。
お日様の差し込む亀裂などもなく、完全な暗闇。バクさんの目なら見えるのかもしれませんが、私たちにとってこれは厳しいです。
「しまったな。松明を持ってくるべきだった」
しくじった、という顔をするフィリムさんですが、私はあることを想い付いていました。
「ここは……」
祈りを込める。この暗闇を照らせるほどの明るさを放つ幻獣を召喚することができれば。
召喚術の行使。それにより空間に歪みが生じる。
「グル?」
それにバクさんが警戒の声を漏らすが。
「大丈夫、大丈夫。アルメお姉ちゃんに任せておけば」
「心配することない」
「大丈夫ですよ」
ミスラちゃんとエスちゃん、リルフちゃんがそう言ったことで信頼してくれたようでした。
空間の歪みから稲妻を周囲に放つ幻獣が出現する。その稲妻の光で周囲の暗闇を明るく照らし上げる。
「これは、ボール・ライトニング」
エスちゃんが名を教えてくれる。ボール・ライトニングという幻獣さんですか。
「ボール・ライトニングさん、今回はよろしくお願いします」
どうやらライトニングさんは人語を解さないのかバチバチ、と軽く電撃を光らせて返事としたようだ。
「一応、言っておくが触るなよ、アルメ。ボール・ライトニングに触ったりしたら、その瞬間、人間なんか炭だぞ」
「え? そ、そうなんですね……気を付けます」
危ない。フィリムさんの言葉がなければうっかり手を触れていたかもしれない。
ですが、それだけの力があるのであればバクさんの住み家を襲った魔物たちを退治することもできそうですね。
「それじゃあ、ボール・ライトニングさん、行きましょう」
ボール・ライトニングさんが浮遊したまま前に進むが、ジャイアント・バクさんは露骨におびえた様子で距離を取る。
「魔物にも怖いものがあるのか……」
その様子を見ながらフィリムさんは新発見だ、と言うように呟く。
とりあえずボール・ライトニングさんに先に行かせておいた方がよさそうだったので私はそのまま行ってもらう。
すると奥に魔物の気配。大型の狼型の魔物が十匹近く。たむろしていた。
「こいつらがジャイアント・バクを追い出した魔物か。なるほど。フィアー・ウルフとくれば凶暴さで知られているから、納得だ」
フィリムさんがそう冷静に分析する。
「フィアー・ウルフってどんな魔物なんですか?」
「肉食凶暴にして好戦的な危険な魔物だ。人間だろうと動物だろうと魔物だろうとその肉を目当てに牙で食いかかる」
「それは……放ってはおけませんね」
なるべくなら魔物相手でも命を奪いたくない私であるが、それはさすがに心を鬼にして討伐しなければならないだろう。そう思い、フィアー・ウルフたちを見るが、様子がおかしい。
「なんだか、混乱しているぞ」
「目が眩んでいる……?」
ミスラちゃんとエスちゃんも気付いたようだ。
「フィアー・ウルフは闇の中で目が効く。いきなりこんな明るいボール・ライトニングがきて、目をやられたのかもしな」
「それならチャンスということですか?」
「そうなる」
「それでは……」
私はボール・ライトニングさんに攻撃の指示を出すことにした。
ボール・ライトニングさんの体から電撃が放たれ、フィアー・ウルフたちに振る注ぐ。
それは雷雨と変わりなく、落ちて来る雷に撃たれたフィアー・ウルフはそれだけで絶命した。
そのまま手は休めず、ボール・ライトニングさんの電撃攻撃が続く。これにフィアー・ウルフたちは完全にパニックに陥ったようだ。
その内、一匹がこちらに向かって走ってくるが、
「しっ!」
フィリムさんが剣を一閃させ、切り裂く。
「凄いですね! フィリムさん!」
「お前の召喚術ほどじゃない!」
それからもボール・ライトニングさんの電撃攻撃は続行される。真っ暗のはずの洞窟内部は煌々と照らされている。まるで太陽の下にいるかのようだ。
ボール・ライトニングさんがさらなる電撃を放ち、ついにフィアー・ウルフたちは全滅した。
圧倒的な力だ。自分で呼んだ幻獣なのだが、その力には驚くしかない。
「ありがとうございます、ボール・ライトニングさん」
私はボール・ライトニングさんにお礼を言った。
「それじゃあ、ミスラちゃん、エスちゃん、リルフちゃん。バクさんはこれでいいって言ってる?」
「ああ! お礼を言っているぞ、アルメお姉ちゃんに!」
「問題解決」
「大丈夫です!」
三人がそう言う。ジャイアント・バクさんも洞窟の奥深くに戻って行くようだ。
ならばこれで全ての問題は解決ということでしょうか。
「これで依頼は完了ですか? 意外と呆気ないですね」
「お前の能力が高すぎるからそう錯覚するだけだ……」
「そんなフィリムさんもお世辞が上手い」
「世辞ではないんだがな……まぁいい」
なんだか分からないけど、とりあえずこれで終わりということでいいようだ。
私たちは洞窟から出るとボール・ライトニングさんに帰還していただき、戻ろうとする。
「全く。お前の召喚術は大したものだよ」
やや呆れまじりの口調でフィリムさんが呟く。
「でも、私自身が戦っているワケじゃないですし……フィリムさんこそ、先程、フィアー・ウルフの一匹を剣で撃退したじゃないですか」
「あの程度の活躍ではな。お前が呼んだボール・ライトニングが倒した敵の方が遥かに多い」
「さっすがアルメお姉ちゃんだね!」
「お見事」
「流石ですわ」
フィリムさんだけではなく、ミスラちゃんやエスちゃん、リルフちゃんまでそんなことを言って私を褒め称える。
「よしてください。私はそんなこと言われる人間じゃないですよ」
なにせ聖女の座を追放された元・聖女なのだ。ロクでもない人間に違いない。それでも賛美の言葉は止まず、そのまま王都まで帰って来たのだが、なんだか、様子がおかしい。
騎士団は町中まで出張って来ているし、あちこち殺気立っている。
「これは……」
フィリムさんが何かを察したように周りを見る。私も思いつくことがあった。
「フィリムさん、これは」
「ああ。魔物の襲撃があったな」
魔物の王都への襲撃。それに間違いない。
で、あれば三度目だ。聖女が祈りを捧げている王都に三回も魔物の襲撃。
「聖女の祈りは、加護はどうしたというのだ。これは……」
フィリムさんは不思議そうに呆れたように言う。
私も、私から聖女の座を奪った今の聖女、ミスティアのことを考えて彼女はどうしているのだろう、と考えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます