第14話召喚術の有用性
このギルドマスターさんは何者なんだろう、と私は思った。
ミスラちゃんやエスちゃん、リルフちゃんと大して外見年齢も変わらない年端もいない少女にも関わらずギルド『ドラゴン・ファング』をまとめ上げているだけでも不思議だが、何より、
(どうして私を聖女だと……!?)
厳密には追放されているので元・聖女、だが。それでも私の正体を見抜くとは。
聖女の顔を見れるのは一部の人間だけだ。国王陛下を始めとする王族の人たち、貴族の方々、騎士団の騎士や兵士の人たちでも上位の人しか顔を拝むことはできない。
ましてや一般人ともなれば言うまでもない。それは冒険者ギルドと言えど変わりはないはず。
(なんて慧眼……)
その幼い外見でこのギルドの長をやっているのは伊達ではないということですか。
だけど、ここで認めるワケにはいきません。
「ギ、ギルドマスターさん?」
「イルフィだよ」
「えーっと、イルフィさん。私が聖女なんてまたご冗談を」
「うーん、冗談のつもりはないよ。今の聖女よりよっぽど聖女らしいと思うけど」
聖女が私の代からミスティアに代替わりしたことも知っている。
温和な笑みを浮かべているように見えるイルフィだが、その目は鋭くこちらの胸の中を射抜くように見つめてくる。
「どうやら、誤魔化しても無駄のようですね」
「そっ、そっ。ボクも無駄話は嫌いなんだ。だからいきなり本題に入らせてもらうよ」
本題。私がこのギルドに所属できるかどうか、ですね。
難しい問答になりそうです。この慧眼の持ち主のギルドマスター・イルフィさんのお眼鏡にかなう実力があることをここで証明しなくては。
「とりあえずアルメティニスはフィリムと同じチームでいいかな? 一緒にいる女の子三人も」
「人が隠している本名を言わないでくださ……って、え?」
いきなり本名を言われたことも驚いたが、その後の言葉にも驚く。フィリムさんと同じチームでいい? その言葉はまるで私のギルド入りも認めているも同然で……。
「あの、私、このギルドに入れるんですか?」
私の問いにキョトンとした顔の後、イルフィは笑う。
「当たり前だよ。元・聖女で現・召喚術使いなんて逸材。放っておけるワケないじゃない! 是が非でも我がギルドで獲得したいよ!」
召喚術を使えることに関してはフィリムさんが報告したのだろう。流石にギルドマスター相手にフィリムさんが隠し事をするとは思えない。
「……私、召喚術を使えることくらいしか取り柄がないですけど」
「十二分過ぎる取り柄だと思うけど。ボクも長く生きているけど、召喚術の使い手なんて初めて見るし」
この人の実年齢は本当はいくつなんだろう。そんなことを疑問に思うが、レディーに年齢を訊ねるのはマナー違反だ。たとえ女同士であっても。
「君のその召喚術の力があれば今の微妙な聖女なんて押しのけることなんて余裕だと思うんだけどな」
「随分、今の聖女……メルティアに厳しいんですね」
私が言うとそりゃあ、そうだよ、と頷く。
「この二日間で二回も魔物の襲撃を許しているんだよ? こんな事、君や君の一代前の聖女様の時にはなかったことだよ。もうこの時点で聖女失格だね」
手厳しい、とは思うが、確かに私の代と先代では魔物が町に襲い掛かって来るなんてことはありえなかったことだ。
メルティア。貴方は何をやっているのですか。聖女になったからにはアルカコス王国の全ての町を魔物の脅威から守るために祈りを捧げなければならないというのに。
私を聖女の座から追放した彼女には聖女としての最も基本的な役目を果たせていない。
「それに二回目の襲撃。ついさっきだけど、結構、大軍だったらしいじゃない。君の召喚獣ペガサスの力で蹴散らせたようだけど」
「お耳が早い」
「そりゃ、そばにいたフィリムから聞いたからね」
それもそうか。しかし、それ以外のことについても情報を手に入れるのが早いと言わざるを得ない。特に極秘にされている聖女の代替わりなんてどこから入手した情報なのだろう。
「もしや……ギルドマスターさんは……」
「イルフィでいいよ」
「……イルフィさんはひょっとして貴族の方々と親しいので?」
私の探る言葉にイルフィさんは目を細めてニヤリと笑う。
「意外と腹芸ができるタイプなのかな。アルメティニス」
「私も元は聖女です。最低限ではありますが、貴族の方々との付き合いもありました」
「ふぅん。まぁ、可愛い顔しているしね。陰謀とは程遠そうだ」
褒められているのか、貶されているのか。
「まぁ、安心してよ。君が聖女である事はフィリムにも言わない。秘中の秘ってヤツにしとくから」
「助かります。後、元・聖女です」
「自ら召喚術を使って町を救った君は今でも聖女だと思うけどなぁ」
「あれも自分でもなんで使えるのか分からない能力ですし……」
「使えるんだからいいんじゃない。最強クラスの能力だし」
確かに凄く強い力なのには異論はない。
細身で武芸の経験もない私でも魔物の大群を楽に蹴散らせてしまう力なのだから。
それでも自分自身で戦っているワケではない。召喚獣さんに相手を倒してもらうだけだから胸を張れることでもない。
「まぁ、とりあえず後のことはフィリムに任せるけど、君の召喚術さぁ」
「は、はい?」
なんだろう。あまり使ってはいけないのでしょうか。
「使うなとは言わないけど、いつまでも隠し通すのは無理だと思うよ」
ドキリ、と胸が鳴った。しかし、それはどこかで覚悟していたことだ。
召喚獣は基本的に巨体だし、派手だし、戦い方も人目をしのんで、などとはかけ離れている。
あの術を使って戦っていればいつかは私が召喚術の使い手であることは露見してしまうだろう。
「ま、ボクはそれを覚悟の上で召喚術の有用性を見込んで君をこのギルドに招き入れるんだからね」
「それは、ギブ・アンド・テイクということで?」
「どっちかと言うとウィン・ウィン? ま、細かいことはいいじゃない」
あっけらかんと何も気にしていないように笑うイルフィさん。これは演技とかじゃなく素、ですよね。多分。
「君の召喚術の力は他には代えのきかない者だよ。ボクのギルド『ドラゴン・ファング』の戦力として存分に力を発揮してね」
「は、はい。よろしくお願いします」
私は腰を折り、頭を下げた。そんなことしなくていいのに、とイルフィさんは笑っていたが。
・
「あー! 出てきた!」
ギルドマスターの部屋、イルフィさんの部屋を出ると途端にミスラちゃんが大声を出した。
「ごめんなさい。待たせてしまいましたか?」
「ううん! 全然!」
「大丈夫だった? アルメ」
「アルメ様、何か言われませんでしたか?」
ミスラちゃんが笑みを見せる一方、エスちゃんとリルフちゃんは少し警戒した顔だ。しかし、二人が心配するようなことは全くなかった。
「大丈夫。ギルドマスターさん。いい人だったわよ。私の召喚術もアテにしたいって」
「それは良かったわね!」
「能力を買われたのならとりあえず安泰」
「アルメ様のお力なら当然ですね」
三人と話しているとそこにもう一人が話しかけてくる。
「とりあえずギルドマスターから話を聞いたと思うが、アルメ。お前の召喚術は基本的に秘匿する。……が」
「いずれ露見するだろう、ですね」
「そうだ。とはいえ、覚悟の上のようだな」
「ええ」
秘密がバレると不都合。とはいえ、召喚術だけが私の唯一の戦闘手段である以上、封印するワケにはいかない。
召喚術を使えば一騎当千の私だが、召喚術がなければ何の力もないか弱い小娘でしかないのだ。
それに悪いことに使うというのなら抵抗があるが、良いことのために使うのなら、多くの人を救うために使うのなら躊躇せず召喚術を使える。
「お前が召喚術で呼び出す幻獣たちはどいつも強力無比だ。これからの先の戦い、大いに期待しているぞ」
フィリムさんはそう言って快活に笑う。
あまり期待されすぎても困るのだが、私の召喚術はとても稀少で強力な力だ。
この力を使って人々を救えるのなら、私は存分にこの力を振るおう。
聖女を追放されても、人々を救うという聖女の心意気を捨てた気はない。
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