第12話無双の召喚術とギルドマスター
「行ってください! ペガサスさん!」
私が呼び出したペガサス。普通の馬を越える大型の体躯に、やはり普通の鳥などを大きく超えるサイズの両翼を持った白亜の幻獣はいななくと両翼を広げて、戦場に向って飛んでいく。それを私は見送るしかない。
「これで被害を少しでも抑えられれば……いえ、被害なんて出させません!」
強い決意で私はそう言い放つ。
遠目に見える戦場では王都に侵入せんとする魔物たちとそれを防ごうとする騎士団の兵士たちの攻防が行われている。
そこに白亜の馬が舞い降りた。
突然の登場に騎士団も魔物たちもお互いに困惑しているのが、見て取れた。
特に騎士団は魔物の援軍かと思い、ペガサスさんに攻撃を仕掛けようとしたが、ペガサスさんがまず、その巨体での突進攻撃で魔物たちを蹴散らしたのを見て、考えを改めたようだ。
「あれならペガサスを敵だとは思うまい」
隣で同じ光景を見ているフィリムさんもそうお墨付きを与えてくれる。それなら安心だ。わざわざ呼び出した幻獣さんを敵と勘違いさせて攻撃させてしまうなどしてしまえば、私の呼び声に応えて来てくれた幻獣さんに申し訳が立たない。
「フィリムさんもここで見ているので?」
「なんだい? 嫌味かい? 自分は召喚獣を呼んで助けに送っているのに、私は棒立ちしているだけ、と」
「い、いえっ。そんなつもりは……!」
フィリムさんの言葉に私は思わず萎縮してしまうが、気にしていないようにフィリムさんは笑った。
「冗談だよ。流石に今から全力ダッシュで駆け付けてもあの戦場には間に合いそうにない。ここはアルメの呼び出したペガサス頼みだ」
快活に笑うフィリムさんからは二心は感じられない。私は内心で息を吐く。
「大丈夫。幻獣があの程度の魔物に後れを取るなんてありえない」
エスちゃんもそう言って戦いの勝利を保証してくれる。
「そうだな! アルメお姉ちゃんが呼んだ幻獣だからな!」
ミスラちゃんも嬉しそうにそう言う。
「アルメ様のお力ならば余裕綽々というものです」
リルフちゃんも自分のことのように自慢げに言う。
そして、戦闘はそれから間もなく終結した。
私の呼び出したペガサスさんの活躍で魔物たちは蹴散らされ、退散していった。
ペガサスさんは天に上り、私の元に帰って来て、謎の救世主の出現に困惑している様子の騎士団を横目に私たちは王都内に帰還するのであった。
・
もう日も暮れてしまったが、約束通り、ギルド『ドラゴン・ファング』に私を所属させてもらうべくフィリムさんの伝手でギルドの本部ビルに入り、ギルドマスターさんとやらと面会させてもらえることになった。
ギルドマスターさん、ですか。さぞ、歴戦の戦士で貫録のあるお人なのでしょうね。
それを思うと緊張を覚える私である。
「全く。あいつらは何なんだ」
そんな中、ミスラちゃんが憤慨した様子を見せていた。その理由は分かる。
「アルメお姉ちゃんのことを弱そうだとか、本当にギルドに入れるのかとか……」
そう。フィリムさんの紹介でギルドの本部ビルの中に入れてもらった私たちだが、三人の幼い女の子を連れていて腕っぷしも全く強そうではない私はギルドの中にいた冒険者の方々から厳しい視線……言葉を選ばなければ舐められていたのだ。
その方々は屈強な肉体を持ち、見るからに強そうという雰囲気だったので私のようなか細い体の女を舐めるのもある意味、当然かもしれないが。
「気にするな。皆、アルメの実力を知れば態度も変わる」
フィリムさんが苦笑いしながら言う。同じギルドのメンバーをそこまで悪い言えないのもあるだろうが、確かにこのような腕っぷしだけがものを言うような世界では自分の実力を見せることが一番だろう。
フィリムさんもそれで私に対する認識を改めてくれたのだし。
……といっても私の召喚術はあまりおおっぴらにできないものなのだけど。
失われた古の大魔術。そんなものを使える、なんてのはね。
「フィリムの姐さん。その女、大丈夫なんですか?」
また男が一人、いぶかしむように私を見ながらフィリムさんに話しかける。
「問題ない。この女……アルメは多分、私より強い」
「ええっ!? 嘘でしょう? フィリムの姐さんはウチのギルド1の実力者ですぜ?」
「ふふ……」
楽しげにはぐらかすフィリムさん。その男が去っていた後、私は小声で訊ねる。
「フィリムさん。私が貴方より強いなんて……」
「事実だろう?」
「事実じゃありませんよ。私がフィリムさんと戦ったら一瞬で負けます」
謙遜でも嘘でもない。それが真実だ。体術も剣術の心得もなにもない私ではフィリムさんが本気を出せば10秒とてもつまい。
「だが、お前には召喚術の力がある。あれを使われたら私は手も足も出ないな」
「あれは……呼び出した幻獣さんたちに戦ってもらっているだけで、私の力ではありません」
「自分の力だと誇っていいと思うがな」
フィリムさんはこう言ってくれるが、本当に幻獣さんたちの力を自分の力などと思っていいのだろうか。
召喚術の力以前もそうだ。聖女だった頃に使えた奇跡魔法。
あれも天からの授かりものだと思って自分で習得した力などと思ったことはなかった。
「何度も言うけど、アルメ。あの力は凄い力なの」
「それが使えるアルメお姉ちゃんも凄いってことなのよ!」
「アルメ様はもう少し自分を誇っていいと思います」
エスちゃんとミスラちゃん、リルフちゃんがそう言って笑みを浮かべる。
「そ、そうなのかしら……」
「ほら。そんなこと言っている間にギルドマスターの部屋の前だ。話は通してある」
「ええ!?」
いつの間にかギルド『ドラゴン・ファング』の本拠の最深部に到達していたようだ。
他の部屋とは一見、あまり変わりがない部屋に見えるが、この部屋がこのギルドの長、ギルドマスターの部屋、ですね。
「緊張します……」
「大丈夫だ。ギルドマスターは善人さ」
私が萎縮しているのを見て、フィリムさんは笑顔を見せる。
安心させるための嘘を言っているようには見えない。少なくともフィリムさんから見て善人なのは間違いないだろう。
フィリムさんがノックをする。中から「入っていいよ」と声。
あれ……随分と幼い女の子の声に聞こえましたけど……ギルドマスターさんの部屋で世話係でもやっている侍女さんか誰かでしょうか?
そうして、部屋の中に入った私たちを迎えたのは。
「やあやあ、待っていたよ。君がフィリムが紹介してくれたアルメちゃんだね。召喚術が使えるんだって? 凄いね。あの失われた神秘の術を」
ミスラちゃんやエスちゃんと大して背丈も変わらない年端もいかない10歳くらいの少女だった。
「え? ええ!?」
思わず私は動揺の声を出してしまう。この子が、ギルドマスター? 嘘でしょう?
フィリムさんが私をからかっているのかと思い、そちらを見るも。
「マスター。フィリム、ただいま、帰還しました」
「うん。難しい依頼、ご苦労様」
「いえ。報告した通り、アルメがいたおかげで楽にこなせました」
「召喚術の使い手がいればそりゃあ、楽かもしれないね」
フィリムさんは演技などではなく、本心から目の前の幼い少女に敬意を払って話している。と、言うか。
「フィリムさん! 私が召喚術を使えることは内緒だって!」
「それに関してはすまない。流石にマスターにまで黙っていることはできなかった」
「そうだよ、アルメちゃん。ボクもマスターとして、自分のギルドのメンバーの実力くらいは把握しておかないとね」
私の追及にフィリムさんは詫びの言葉を言いつつ、ギルドマスターだという少女はフィリムさんをかばいつつ、正論を言う。
たしかに自分のところに所属する冒険者の実力くらいは把握しておきたい。正論ですが。
「で、でも、ギルドマスターなんて凄そうな人が、その、随分、幼いんですね」
「そうかな? 見かけより歳を取っているよ、これでも」
「そ、そうなんですか……?」
ひょっとして竜の少女たちみたいに外見は幼く見えても実際はそうではないのか。
だからってギルドマスターさんが人間ではないとは決め付けられない。優れた魔法使いは自分の容姿・年齢を操作することも可能だということは知っている。
「それじゃあ、ちょっとアルメちゃんと二人きりで話したいから他のみんなは席を外してくれるかな?」
そんなことをギルドマスターさんは言う。思わず警戒してしまうが。
「大丈夫大丈夫。取って食べたりはしないから」
ギルドマスターさんは邪気のない笑みでそう言った。それに納得してミスラちゃんとエスちゃん、リルフちゃん
そしてフィリムさんが退室する。
二人きりになったところでギルドマスターさんは私を見て、そして。
「それにしても驚いたよ。まさか聖女様がボクのギルドに入ってくれるなんて」
隠していたことをズバリと言い当てられ、私は心臓が口から飛び出しそうになってしまった。
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