第8話冒険者ギルドの門前払い

 とりあえずは冒険者ギルドに向かうことにした私たち。

 冒険者ギルドとは民間や国家から持ち込まれた魔物の討伐や要人の護衛、山賊討伐などの依頼を冒険者へと仲介する冒険者の組合のことだ。

 冒険者たちもフリーの立場でいるよりギルドに所属していた方が依頼が来やすいし、社会的名声も上がるので多くの冒険者はギルドに所属するらしい。

 同じように商店の組合は商業の発展・活発化を阻害するものとして廃止されたが、冒険者の組合は未だに残っている。そちらの方が都合がいいということだ。

 それにしても、私が冒険者、なんて、想像もしていませんでしたね。


「どこ行く~?」


 純心な笑みで私に問い掛けて来るミスラちゃん。冒険者ギルドと言っても玉石混交。様々なギルドがあることくらいは知識として知っている。特にアルカコス王国一の都市であるこの王都には。


「一番大きいのは『グローリー・ガーディアンズ』」


 エスちゃんがポツリと言う。グローリー・ガーディアンズ。それは私でも名前を聞いたことがある。

 アルカコス王国最強の冒険者ギルドで剣なり槍なり弓なり魔法なりの腕自慢が集っているという超一流ギルドだ。


「そこに行こうよ! お姉ちゃん!」

「そ、そうね……」


 乗り気のミスラちゃんにエスちゃんもクールな表情ながら同じ意見のようだ。リルフちゃんも異論はないようだが、私は曖昧に頷いた。少し、いや、かなりの懸念事項があるのだが、とりあえず行ってみないことには始まらない。

 冒険者ギルド『グローリー・ガーディアンズ』の本日ビルは王都の大通りに堂々と経っていた。一見すれば富豪の家のような豪華さだ。


「うわ、さっすが最強ギルドだね」

「それに相応しいです」


 素直な驚きを声を漏らしながら、ミスラちゃんとリルフちゃんは小さい背丈を伸ばして上を見上げて、大型ビルの全貌を確認しようとする。エスちゃんはクールなものだった。私でもそのビルの最上階は見えない。


「とりあえず入ってみましょう」


 基本的にギルドは来る者拒まずとは聞いたことがありますし、大丈夫でしょう。

 と、思ったのだが。


「ダメダメ。お嬢ちゃんみたいにか弱い女の子にこのギルドのメンバーは務まらないよ」


 受付の人に冒険者としてギルドに登録したいと言った時の返事がこれだった。


「なんでよ~!」

「アルメは強い」

「どうか取り合ってもらえませんか?」


 ミスラちゃんとエスちゃん、リルフちゃんが抗議してくれるが、その三人の外見も幼い少女だ。残念なことに説得力はない。


「そうですか。では、仕方がありませんね」

「おう、帰った帰った」


 こうも全面的に拒否されているのにあまり食い下がっても良いことはない。そう思い私はさっさと身を退くことにした。

 そうして踵を返し、ギルドから出て行こうとすると入り口の扉が開き、金色の髪をし豪華な鎧を身に纏った男が入ってきた。

 美男子と言って10人中10人が異論はないであろう、端正な容姿の男だ。年の頃は20の半ばくらい、だろうか?


「おお! アレクセイ殿!」


 それまで私を邪険に扱っていた受付の男が声を上げる。アレクセイと呼ばれた金髪の男はさわやかな笑みを浮かべた。


「どうも。依頼にありました商人の護衛、完遂しました」

「それは素晴らしい。やはりアレクセイ殿は当ギルド1の冒険者ですな」

「よしてください。褒めても何も出ませんよ」


 受付の人の言葉を受けて軽快に答えるアレクセイ。


「ところでこちらのお嬢さんがたは?」


 そのアレクセイが私たちに目を止める。


「は。なんでもウチのギルドに入りたいとか言うんですが……」

「ふぅん……」


 アレクセイは私たち、いや、私に視線を向けて、観察するように見る。少し、嫌な感じの視線だ。


「君、剣は振るえるの? 槍は? 斧は? 弓は? 魔法とかは?」

「ああ、いえ、その……」


 それら全てができない。召喚術なんていう稀少な力を持っているが、それをまだ信頼が置けるか分からない相手に堂々と話すのもはばかられた。

 口ごもる私にアレクセイは爽やかな笑顔で。


「じゃあ、君にはちょっと無理だ。お嬢さん。大人しく故郷に帰るなりしたまえ。君のような可憐なお嬢さんに戦いは向いていない」


 優しい言葉で門前払いの宣告を言い放った。


「なんでよ~! アルメお姉ちゃんには!」

「ミスラ」

「ここは退きましょう」


 ミスラちゃんが思わず何かを話そうとしたのをエスちゃんとリルフちゃんが抑える。おそらくは召喚術のことを話すつもりだったのだろう。

 だとしたら二人共、ナイスです。ここで堂々と召喚術が使えるなどと喧伝してもいいことはないのですから。


「へぇ、アルメって名前なんだ」


 アレクセイが反応する。この人。美男子であることに間違いはないのだが、どこか嫌な感じの受ける人だった。


「なんなら僕が手籠めにしてあげてもいいけど? 君に冒険者としての仕事は無理だろうけど、君のような美しい女性がギルドで職員をやってくれるのならみんなの癒しになれる」


 優男の顔で平然とそんなことを言い放つ。これには流石に私も強めの口調で「結構です!」と言い放つと三人の竜の少女と共にギルド、グローリー・ガーディアンズを出て行った。その背中にアレクセイの残念そうな視線が注がれているのを感じながら。

 それからも様々なギルドを回ってみたものの、どこもほとんど門前払いで帰される。見るからにひ弱そうな私と10歳くらいの女の子にしか見えない身すらミスラちゃんやエスちゃん、リルフちゃんでは仕方がないのだが。こんなことなら聖女時代に武芸の一つでも身に着けておくべきだったかもしれません


「はぁ……」


 予想はしていたが、これは流石に落ち込む。ため息を吐く私にエスちゃんが声をかける。


「アルメ。ため息をつくと幸せが逃げていくって人間は言っている」

「その諺は知っていますけど……こうも門前払いが続くと、ね」

「なんでお姉ちゃんは召喚術を使えるって言わないの? それなら、一発で合格でしょう?」


 ミスラちゃんは繰り返し、私が召喚術を使えることを隠すことに異議を唱える。

 が、あの力は早々、簡単に見せていいものではないということは私にも分かる。


「召喚術がなくても私を受け入れてくれるギルドがあれば……」


 それが難しいことであることは分かっているのだが、つい口にしてしまう。そうしてついにこの王都で名が知れているギルドの中では最後の一つ『ドラゴン・ファング』を訪れる。

 ここでも断られたらもうギルドに所属する冒険者になるなんてことは諦めないといけない。


「この名前なら大丈夫だと思いたいですね」

「そうね、アルメお姉ちゃんにはミスラたちが付いているんだから」

「竜が竜に所属する。悪くない」

「これも何かの縁ですね」


 竜の少女三人をゲン担ぎにギルドの門戸を叩く。中に入ると受付の人、に会う前に一人の女性剣士がギルドから出ようとしている所に出くわした。

 赤みがかかった茶髪を肩まで伸ばし、全身に朱色の軽鎧を纏った女性剣士だ。腰には長い剣を挿している。

 戦いには素人の私でもこの人は強い、と思った。


「ん? 見ない顔だな」

「ああ、はい。私はアルメと申します。このギルド、ドラゴン・ファングに所属したくて……」

「ほう。君が」


 女性剣士は笑みを浮かべる。そこによこしまな感情は見受けられない。


「君は剣や弓、魔法が使えるのか?」


 やはりその質問をされるか。私は気まずくなってしまいながらも素直に答えた。嘘は付けない。


「いえ、どれも……」

「そうか……」


 少し困ったような女性剣士の声。当然だ。こんな体たらくではつわもの集うギルドからは門前払いされて当然。今回もダメなのかと思ったが。


「では、君に無辜の民を守るという気持ちはあるか?」


 そこで女性剣士は質問を変えた。その質問の答えは決まっている。


「勿論です。罪なき人々を一人でも多く救うために、私は戦います」

「ふむ」


 満足そうに女性剣士は頷く。


「私の名前はフィリムだ」

「フィリム、さん。……それはギルドへの加入を認めてくださるということで?」

「いや、まだだ。これから私は森の中に増えているという大型牛の魔物、アサルト・ブルどもの討伐に向かう。それに付いてきてくれ。その働き次第では私が君をこのギルドに推薦しよう」


 ようは実力を示せということか。少しためらった私だったが。


「分かりましたご一緒させてもらいます」


 そう頷いていた。


「ふふ、助かるよ。ちょっと面倒なことになりそうなんだ」


 小さな声でフィリムさんがそんなことを呟いたのが少し引っかかったが。

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