第5話竜の目的と現聖女の力の弱さ


「ふぅ、これでよし、と」


 ミスラちゃんとリルフちゃんとエルちゃんにとりあえずまともな服を買ってあげて一息付く。

 三人は大いに喜んでいるようだった。


「わーい! ありがとう、アルメお姉ちゃん!」

「ありがとうございます、アルメ様」

「……ありがと」


 喜怒哀楽のハッキリしているミスラちゃんは幼い顔たちを満面の笑みに変えて短いスカートの服ではしゃぎ回る。ちょっと、そんなに動いたら見えちゃうってば。


 おしとやかそうなリルフちゃんは礼儀正しく、頭を下げてこちらに礼を言う。スカートの長さは普通だ。元々、三人の中では一番しっかりしていた服を着ていたので最小限の体裁を整えただけになっている。


 クールなエスちゃんは表情の変化がほとんどない。一応、喜んでくれているとみていいのだろうか。ちなみにこちらのスカートはロング。


 買える範囲内だが、どのような服にするかはそれぞれに選んでもらった。

 一文無しで王城を追放された私が何故、そんなに高くないレベルのものとはいえ、服を三着も買えるかと言えば、先程の騒動の後の事である。


 どうやら召喚獣グリフォンとやらを呼び出し悪漢たちを追い払った私は周りの野次馬たちからおひねりを貰ったのだ。

 召喚術なんて凄い術を使ったのだから周りはむしろ私を怖がったりするのかと思ったが、召喚獣自体、一般になじみがなさすぎるもののようで、何かの大道芸かと勘違いされたようだ。


 元・聖女の私がおひねりなんてもらう訳にはいかないとは思ったものの、一文無しでいるのはさすがに困っていたところだ。背に腹は代えられず、素直にそれらのお金をいただくことにした。


「……とりあえず安い宿なら一晩は泊まれそうね」


 残ったおひねりの金額を見ながら私は一人で呟く。今日のところは宿に泊まり、そこで先のことを考えよう。


「それにしてもお姉ちゃん! 召喚術が使えるなんて凄いね!」

「え、ええ……あれってやっぱり凄いことなのね」


 何故、召喚術なんてものを私が使えてグリフォンなんていう伝説の幻獣を呼び出せたのかは全く分からないのだが、とりあえず使えたことは確かだ。


 思えば最初にミスラちゃんを助けた時の空から降って来た光も召喚術の力だったのではないだろうか。


「今の世で召喚術が使える人間は聞いたことがない。聖女って人の奇跡魔法以上に凄い力」

「アルメ様の力は凄い力なのです」

「そ、そうなのね……」


 エスちゃんとリルフちゃんの説明に私は驚かされる。

 聖女の奇跡魔法以上の力なんて。そんなものを奇跡魔法を失って聖女の座を追放された私が使えるようになるなんてどんなカラクリかしら。


「召喚術にしたって普通はもっと下級の幻獣を呼び出すものです。それがアルメ様はグリフォンなんていう上級の幻獣を呼び出した。やはり凄いことです」

「あ、ありがとう……」


 リルフちゃんが饒舌に説明し、私を称えてくれる。どうやら私はなかなかにとんでもないことをしてしまったようだ。


「でも三人は竜なんでしょ? それならグリフォンよりもよっぽど格上よね?」

「それはそうだよー」

「そうなりますね」

「…………コクリ」


 私の言葉に笑みを浮かべてミスラちゃんとリルフちゃんは肯定し、エスちゃんも頷きを返す。

 ある意味、嫌味な返しに思えるかもしれないが、三人の純粋な態度を見ているとそんな感じは全くしなかった。



「さっきも言ったけど、そんな竜が……それも幼い三人がどうしてこのアルカコス王国の王都にいるのか。それを知りたいのだけど……」

「うーん、それは……」


 私の問いにミスラちゃんは答えを渋る。どうしても答えたくないのなら無理に聞き出すつもりはないが、知れるのなら知りたい。


 王城を追放された私は故郷の村まで帰るつもりだが、その前に三人の手伝いができるものならしてあげたい。そう考えるからだ。


「まず一つだけ訂正」


 そんなことを思っているとエスちゃんが口を開く。


「訂正?」

「アルメはわたしたちを幼いと言うけど、こう見えてわたしたち100年は生きているから」

「ひゃ、百年!?」


 思わず声を上げてしまう。15歳の私の6倍以上だ。竜は長命を聞くが、そういうものなのだろうか。女の子扱いは失礼かもしれない。


「そ、それじゃあ、年上ぶりなんてダメかしら……」

「えー! お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ!」


 ミスラちゃんが小さな体で私に抱き着きながらそんな不満を述べる。リルフちゃんもエスちゃんもこれには同意のようだった。


「アルメ様はそのようなことはお気になさらないでください」

「実際に外見が子供に見えるくらいは自覚している。一応、知っておいて欲しかっただけ」

「そ、そう……二人はもう立派な大人なのね」

「ううん。それもまだまだ。竜は1000年を超えて初めて一人前……一竜前? と認められる」


 1000年。人間の尺度ではかるのなら途方もない話だ。

 彼女らが普通の女の子に見えてやはり人智を超越した竜という神聖な存在であることを実感させられる。


「その凄い竜がどうして人前に姿を現したの……?」


 いじわるかもしれないが、やはりそこは追及させてもらう。既に三人の善良さは分かっているし、竜というのは神聖な生き物だ。

 決して悪しき目的あってのことではないとは分かるのだが。


「うーん……全部は言えないんだけど……いいよね? 二人共?」

「……まぁ、アルメになら」

「……アルメ様になら、よろしいのではないでしょうか」


 そう言って三人が私を見上げる。話してくれる気になったようだ。


「わたしたちはね……このアルカコス王国に起こる厄災を止めにきたの」

「厄災? このアルカコスに?」

「……そう」


 三人の竜はそう言う。

 この大陸の四大国家の中では最も強大で安定していると言われる大国アルカコスに厄災が起こる? にわかには信じ難い。しかも、それを止めるためにわざわざ竜なんて存在が三人もやって来るなんて。


「長老様が予言したの。近々、アルカコスで大厄災が起こるって」

「それは聖女が代替わりすることも関係しているみたい」

「せ、聖女が代替わり……」


 ミスラちゃんとエスちゃんの言葉を聞けばそれを絵空事と言えなくなってしまった。


 聖女の代替わり。聖女であった私が奇跡魔法を使えなくなり、新たに現れたメティニアに聖女の座を奪われた。

 これまでの代替わりと違い、穏便なものではなかったが、一応、これも代替わりと言えるだろう。そして、それは今のところ、アルカコスの民衆には伏せられている事実のはずだ。


「代替わりした新しい聖女は悪しき感情を持っているとのことです」

「そんな、ミスティアが?」


 リルフちゃんの言葉に思わず名を言ってしまう。


 ミスティア。確かに彼女は私と共に故郷の村で暮らしていた頃、良家の息女であることを鼻にかけ、私たち平民を見下し、馬鹿にする褒められた性格ではなかったが、今、聖女の座に就いた後もそれは変わらないというのか。


「ミスティア? 新しい聖女はそういう名前なの?」

「アルメ、よく知っている」

「本当ですね」

「ああ……それは風の噂で聞いただけよ」


 嘘をついた私を疑うそぶりもなく、三人の少女は信じたようだ。


 心が痛む。こんな子供たちに嘘をつくなんて、やっぱり私は奇跡魔法が使えるか使えないに関わらず、聖女失格なのかもしれない。元・聖女であることも隠しているままだし。


 三人がこの町にきた目的が聖女絡みなら打ち明けておいた方がいい情報だろうに。


「そもそも、わたしたちが普通にこの町に入れたのも今の聖女の力が弱い証」

「聖女の力さえしっかりしていれば竜なんて絶対、寄せ付けないはずなのにね」

「ええ。今の聖女様はどこかおかしいのはたしかでしょう」

「貴方たちは神聖な存在なのでしょう? それでも聖女の力には近付けないの?」


 聖女の祈りと奇跡の力が町を守り、魔物などの侵入を防ぐ結界となっていることは元・聖女の私はよく知っている。


 今の聖女、ミスティアにはその力がないのか、の議論は置いておいて、聖女の結界とは竜ですら退けてしまうものなのか。


「竜なんて言っても魔物に分類されることもありますし、聖女の力とは相性が特に悪いのです」

「だから普通は聖女がしっかりしていればわたしたちはこの町に近付くこともできないはず」

「そ、そうなのね……」


 それでも近付けて、こうして王都の中まで入ってきた。

 これはミスティアの聖女の力が弱いのか、それとも彼女らの言う厄災の影響なのか。


「まぁ、前の聖女と比べて今の聖女がダメダメなのは確かだよ。アルメお姉ちゃん」


 深い考えはなく言った言葉なのだろう。気楽そうに言うミスラちゃんに私は何も返せなかった。


(ミスティア……貴方は聖女としての役目をきちんと果たしているの……?)


 先代の聖女として追放されるまでは王城と王都を守り続けてきた身としてはそれが何よりも気になったからだ。



 ここまでお読みいただきありがとうございます!

 主人公アルメと竜の女の子三人はここから絆を深めていきます。

 もちろん、アルメの召喚術無双もあります!

 そして早くもボロを出し始めた追放側……。

 期待通りにお話を進める予定なのでご期待ください!


 アルメの無双が見たい。

 竜の女の子可愛いよ竜の女の子。

 主人公と竜の子たちが百合百合するのが見たい。

 追放側の没落ざまぁが待ち遠しい。


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