第4話召喚術発動と三人の竜の少女


「アルメかー。いい名前だね、お姉ちゃん」

「いえ、そんな……」

「わたしもそう思います。アルメ様。ミスラが世話になったようで」



 純心な笑顔でミスラちゃんは言い、リルフちゃんも上品な笑みを浮かべたのを見て、偽名を名乗ったことに心が痛む。


 この子たちは本当にピュアな子だ。元は聖女の立場でありながら、その立場上、王城内の政争に利用されることもあった私などより余程、清らかな心をしているのではないのだろうか。


 それも人間ではない。神聖なる存在、竜、だから、だろうか。


「リルフちゃんも……やっぱり竜なの?」

「はい。わたしもミスラと同じです」

「そう……」


 ミスラちゃんと親しそうな様子から察しは付いていたがやはりリルフちゃんも、か。


 聖女の立場から追放されて路頭に迷った後、竜などという普通の人間であれば一生に一度会えるどうか、いや、出会えない可能性が高い崇高な存在と出会えるとは私の天運はどうなっているのか。


「それよりミスラちゃん」

「ん? どしたの、お姉ちゃん」

「その服は感心しないわね」


 そう。ミスラちゃんはボロボロの服のままだ。


 いくらミスラちゃんの外見が人間でいえば10歳前後の幼い女の子のものとはいえ、それでもその服装は女の子としてはダメだろう。


「そんなこと言われても……ミスラの力じゃ、裸でいるか、これくらいしか……」

「裸よりはマシとか言っていたわね。竜が人間になると裸になるの?」

「人の姿を取れば基本わね!」


 何故か、元気いっぱいに答えられる。そこは元気に答えるところでもないような。

 とはいえ、服を着ていない竜が人の姿を取ればその時も服を着ていないのは確かに理にかなっているとも言える。


「それでもまともな服を……」

「そうですね、ミスラ。わたしのように」

「いや、リルフちゃんの方も簡素過ぎると思うけど……」


 二人共、年頃の少女が着る服にしては相応しくない。なんとかしてあげたいが、今の私は一文無しだ。どうしようか。


 そう思っていた時、明らかなざわめきが起こっていることに気配で気付いた。


 道路の先を見ればその理由にはすぐに気付く。人々の注目を集めながら一人の少女が歩いてくる。


 全裸の。


「な……!?」


 私は思わず呆然とした声を上げてしまう。あ、あれは、何なの?


 少女はミスラちゃんと同じ10歳くらいの外見。でもその身を纏うものはなくすっぽんぽん。綺麗な白い肌がこの王都の往来で堂々と晒されている。幼さを残しながらも美しい顔たちやその白い肌はとても人間とは思えず……まさか。


「ミスラちゃん! リルフちゃん! あの子は!?」

「あー! エスだ!」

「エスですね」


 やはり、知り合いだったのだろう。エス、という名前なのか。それならばあの少女もまた。


「おーい! エス!」


 ミスラちゃんは私に構わず駆け出し、全裸の少女の前まで出ていく。リルフちゃんはこちらに待機だ。

 自分に接近してくるミスラちゃんを見ても全裸の少女は表情を一つも変えることはない。あら? 知り合い、じゃないのかしら。


「ちょっとちょっと、貴方たち、見世物じゃないわよ!」


 私も前に出てとりあえず周りの野次馬たちを追い払おうとする。それでも何人か立ち去っただけで興味深そうに野次馬たちはこちらを注視して退いてはくれなかった。


「ミスラ」

「エス! 遅かったね! でも、裸はダメだよ!」

「ミスラも同じような格好」

「わ、わたしは一応、服着ているし!」


 エスという知り合い、いや、友人かに指摘され、ミスラちゃんは顔を真っ赤にして叫ぶ。たしかにミスラちゃんの服もボロボロの服なのだが、エスちゃんのすっぽんぽんよりは遥かにマシだ。


「ミスラちゃん。そのエスちゃんも……」

「うん。わたしと同じりゅ……」


 大声で竜と言いかけたミスラちゃんの口を私は抑える。こんな大人数がいるところで自分が竜だと明かすなんてとんでもない。


 神聖な存在の竜がこんなところ(王都をこんなところというものなんだが)に現れたと知られればどんな事態を招くか分かったものではない。最悪、王城が兵を出して竜の二人を捕らえようともするかもしれない。


「お姉ちゃんは誰? 見たところ、ミスラ、それにリルフがだいぶ慕っているみたいだけど……ミスラとリルフがわたしに先行してこの町に入って一時間足らず。それだけで二人の信頼を勝ち取る。……たらし?」

「クールな性格みたいだけど結構、毒舌ね。エスちゃん。私はミスラちゃんが困っていたところを助けただけよ。リルフちゃんとはその後、ミスラちゃんの繋がりで会っただけ。正直、今すぐ貴方も助けたいけど」

「助ける? わたしは何も困っていない」


 そう言って堂々と全裸の白い肌を見せるエスちゃん。その身なり(何も着ていないのだから身なり以前の問題だが)が問題なのだ。

 そんなことを思っていると。


「へへへ、可愛いお嬢ちゃんが三人も」

「しかも一人はすっぽんぽんとかなんだよ。これは天の恵みかぁ」


 二人の明らかに二心ありの男が近寄ってくる。

 さっきミスラちゃんに絡んでいた男たちといい、王都の治安はこんなに悪いのか、と内心で嘆息してしまう。


「何よ、貴方たち」

「オレたちはお嬢ちゃんたちを助けてやろうとしているんだ」

「素直について来な、三人の嬢ちゃん。そっちの姉ちゃんも美人だし、面倒見てやるよ」


 こんな男たちに付いて行ってもロクなことにはならない。それは元・聖女の勘とかではなく、15歳まで生きてきた女としての勘だ。


「お断りします。貴方たちに付いて行ってもあまりよろしくなさそうですし」

「そうだよ! わたしはアルメお姉ちゃんと一緒にいる」

「悪いけど、帰って」


 リルフちゃんの拒絶の言葉にミスラちゃんが続く。エスちゃんもクールな表情をやや険しそうに男たちを見上げて、言い放つ。


「なんだと、このガキども!」

「こうなりゃ、力づくで!」


 結局、そうなってしまうのか。こんな暴漢がのさばっているなんて、やはり王都の治安って思っていたより悪いのだろうか。


 しかし、こうなると困った。私は元・聖女とはいえ、今は聖女の力たる奇跡魔法の力を完全に失っている。その上、武器も持っていなければ武芸の心得もなく、腕っぷしも弱い。


 この男二人は明らかに対して強くはなさそうだが、それでも15の女の私には強敵なのだ。


「やっちゃぇ~! アルメお姉ちゃん!」

「アルメ様、お願いします」

「…………」


 とはいえ、私の後ろに隠れるようにして私を頼っている竜の少女三人を前に逃げ出すことなどできるはずもない。

 聖女の資格を失った私だが、心意気までは失ったつもりはない。


「へへ、やんのか、お姉ちゃん」

「勇ましいねえぇ」


 男は二人がかりでかかれば私のような小娘にはまず負けないと思っているのだろう。ニヤニヤしながら距離を詰めてくる。それでも私にとっては脅威なのは先に述べたとおりだ。


 それでも必死で神への祈りを捧げながら、男たちの前に立ちはだかる。


 さっきミスラちゃんを助けたような謎の力。あの力がなんなのかはさっぱり分からないのだが、それがもう一度使えれば。

 そう、思っていると。


「な、なんだ!?」


 男たちが驚愕の声を上げる。私もハッとしてみれば空間に歪みが生じている? その歪みの中から一匹の動物、いや魔物……いや魔物などでもない。これは。


「げ、幻獣!?」


 王城で5年間。聖女として身に着けた知識がその存在が幻獣であると私に理解させてくれた。


 頭から前足にかけては大型の鳥いや鷲。しかし、そこから後ろは獅子の体をしたその幻獣。大きな羽根を雄々しく広げたその威厳は普通の動物でも、ましてや魔物などという存在でも決してない。


「召喚術? それも、こんな高位な……グリフォンなんて……」


 リルフちゃんが驚いたように口にする。召喚術? そんなものが私に使えたというのか? それもグリフォン。竜と同様、伝説でしか聞いたことのない存在だ。


 そんな馬鹿な、とも思う。奇跡魔法を失った何の力もない元・聖女の私に何故、そんな力が。召喚術なんて、聞くところによれば今の世では失われた超高度な魔法だと言うではないか。


 ある意味、聖女の奇跡魔法より貴重だ。


「や、やばい……!」

「逃げろ!」


 男、二人は現れた幻獣を前に恐怖と驚愕の表情で腰を抜かしていたが、なんとか立ち上がるとその場から逃げ去っていく。

 幻獣グリフォンはそんな男たちにその後を追いかけようとしたが、


「もういいわ。無駄な殺生は私は好みません」


 私の声を聞いて思い留まってくれたようだ。グリフォンは再び時空の渦の中に帰るとその威光溢れる巨躯を消す。幻獣の名の通り、幻か何かだったようだ。


「わーい! やっぱりアルメお姉ちゃんはすごーい!」

「召喚術使い。なるほど。それならわたしたちとしても貴方を頼ることを一考に値します。アルメ様」

「凄い」

「う、うーん。自分でもなんでこんな凄いことが出来るかは全く分からないのだけど……」


 とりあえず、女の子三人を助けられたのだから、よしとしよう。……かしらね。



 ここまでお読みいただきありがとうございます!

 主人公の召喚術無双がここから始まり、竜の少女たちとの物語が幕開けます!

 それは追放者たちに痛い目を見せつつ、主人公たちが救世主へと成り上がって行く物語です!


 召喚獣による無双が見たい!

 ロリ竜の子可愛いよ、ロリ竜の子。

 追放者がざまぁされるのが楽しみ。


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