第3話謎の力と竜の少女

 と、とにかく!


 暴漢たちに襲われていた女の子を助けることはできた!


 あの時の私の力がなんなのかはさっぱりわからないんだけど……。


 まさか失った奇跡魔法の力が復活したのかと期待したが、再度試してみても何も起きず、明らかにあれは奇跡魔法とは違った。


 たしかに天から光が降り注ぎ、暴漢を倒すというのは神聖なる奇跡魔法に似て感じられるが、その奇跡魔法の使い手だった聖女だった私には違うと分かるのだ。


 とはいえ、今はあの力が何かを考えるのは後にして。


「お嬢ちゃん。大変だったわね。大丈夫だった?

「うわーん! お姉ちゃーん!」


 暴漢三人に襲われていた幼い少女に声をかける。


 10歳にも満たない、だろうか?


 着ている服はボロボロのものであり、暴漢たちに殴られる・蹴られる以前にその顔も髪も体も薄汚れていたが、その顔自体は端整な顔たちだと分かる。


 一応、私も元・聖女だったけに色々な人を見てきたのでその辺は分かるというか。


 少女は涙を流して私に抱き着いて来る。

 おそらくはこの王都の住人だろうが、こんな幼い身であのように男三人に襲われては泣き出してしまっても無理はない。


 もし私が同じ立場なら泣き出す力もなく、しばらく体も動かせず、恐怖の表情で固まったままだろう。


 見れば野次馬たちも離れていっている。

 結局、誰も憲兵を呼びはしなかった。このアルカコス王国の王都はそんなに治安が悪かったのか、と嘆息したくなる気持ちを堪える。


 今日追い出されるまでの5年間、聖女として城の中で過ごしているだけではまだまだ分からないことだらけという訳か。

 一丁前に聖女ぶっていた自分が恥ずかしくなる。


「ありがとうお姉ちゃん! ミスラを助けてくれて!」

「ミスラちゃん、って言うんだ。とにかく命が無事でよかった」


 気が付けば私に抱き着いていた少女からは涙が消えて、天真爛漫な笑みを浮かべている。


 ミスラちゃん、か。どことなくプリマシア王女様に近い印象を受ける笑顔ね。王女様と同じく、元来はやはり明るい性格の女の子なのだろう。


「お姉ちゃんは聖女様なの?」

「っ! ……い、いえ、私が聖女様なんてそんなことはないわよ」


 鋭い、と思ってしまうが、私が聖女だったのはつい先日までのこと。


 奇跡魔法の力を失った私は聖女にあらずとその任を解かれ、追放されてしまった身だ。


 今、自分のことを聖女なんて名乗れば全てを失い追放されるだけで済んだ(それでも大概なのだが)我が身が不敬罪でどうなるか分からない。


「ふぅん? じゃあ、さっきの凄い魔法……ううん、あれは魔法でもないと思うけどな。アレはなんだったの?」


 子供ゆえの好奇心の高さか。不思議そうにしながらも目を輝かせてミスラちゃんは私に訊いて来る。


 うう、どう答えればいいかなぁ。私自身、あの凄い力に関してはまったく分かっていないんだけど……。


「そ、それより、私はミスラちゃんのことを知りたいな。やっぱりこの王都に住んでいるの?」


 アルカコス王国一の都市であるこの王都では商人たちの楽市楽座制度を執っている。

 旧来の有力者や商人組合が上に立ち、商売を制限するのと違い、商人たちが誰の許可を得ずとも、自由に好きなものを好きな値段で売ることができるようになり町は大いに賑わい羽振りのよくなった住民も多い。


 このあたりは私を追放する最終判断を下したとはいえ、国王陛下の内政手腕の賜物だろう。


 やはり私を追放すると決めたのは臣下のゴルドバーグ公爵や、次代の聖女としてやって来て私に恨みがあったらしいミスティアの企みではないかと思ってしまうが、聖女が、元、であっても人のことを悪く思うのはあまりよくない。


 ……とにかく、この町は基本的にお金持ちが多いということだ。


 それを考えればボロボロの服を着て、私の故郷であった田舎町の身分の低い人間(聖女になる前は私自身もそんな身分の人間だ)のように貧しい身なりをしたミスラちゃんはこの町の住民なのかと疑問を抱いてしまう。


 もちろん、いくら賑わっている王都とはいえ、貧民層は一定は生まれてしまう。悲しいことであるが。


「ううん! ミスラはここに住んでいるわけじゃないよ!」


 元気いっぱいに返される。それでどこか納得するものもあった。


 王都の人間にしてはいくらなんでも服がボロボロ過ぎるし、髪の毛なども整えられていない。


 貧民層の可能性を挙げておいてなんだが、町の外から来たという方がたしかに納得できる。


「そ、そうなの。そうよね。失礼だけど、ちょっと服がボロボロ過ぎるなぁ、とは思っていたの」

「うーん。たしかにボロボロの服なんだけど、ミスラも裸はイヤだからね」


 当然のことだろう。幼い身とはいえ、女の子。裸でいるくらいならボロボロの服でも着て、隠す所は隠す。


 だが、それなら別の疑問が生まれてしまう。


「この町の人じゃないってことはミスラちゃんは町の外から来た商人さんの一家とかなのかな? それとも冒険者の子供とか? 家族の人はどうしたのかな?」


 相手が子供であることを心掛け、なるべくやさしい口調で、しかし、確認しておきたいことは問い掛ける。


 町の人間ではない。そうだとしてもやや目の前の女の子には不審な点がある。


 まずこんな幼い子がこんな身なりで一人で王都をウロウロしていたこと。


 先ほどの暴漢たちを正当化するつもりなどは全くないが、これでは襲ってくれと言っているようなものだ。この子の保護者たる家族の方々は何をしていたのか。


「うーん……ごめんね。お姉ちゃん。助けてもらったのにこんなことはフギリだけどあまり詳しいことは話したくないの」

「そ、そう。それならいいわ。気にしないで」


 フギリ……不義理ね。子供ながらに難しい言葉を知っている、と思った。


 とはいえ、誰にでも言いたくないことはあるだろう。

 相手が子供とはいえ、それを無理に聞き出そうとは思わなかった。私だって自分が元・聖女であったことは隠し通したいことだ。


「でも、一つだけ教えてあげる」

「あら。何かしら、ミスラちゃん」


 二ッとミスラちゃんは笑う。ちょっと悪戯っぽい笑顔。これは相手を驚かせてやろうと企んでいる顔だ、と直感的に思う。


「ミスラはね……竜なの」

「っ!?」


 声を上げるのを堪えるのに苦労した。冗談を言っているのではないかとも思った。


 だが、邪気のない笑顔を浮かべるミスラちゃんを見ていると、とても嘘を言ったとは思えない。


 竜!? 竜ってあの竜よね。竜、あるいはドラゴン。


 この自然界で生物の最上位に立つどころか、神聖ささえ持ち得ていて、おいそれと常人には、たとえ聖女であってもお目にかかることはできない存在。


 下級の竜とされるレッサー・ドラゴンやワイバーンは山などにも存在し、人を襲う魔物の一種とされているが、それらとは根本的に違う種族だ、本物の竜というものは。


「そ、そう……ミスラちゃんは竜なのね」

「信じてくれるの!?」


 自分が言ったことなのに私の対応にミスラちゃんは意外そうに声を上げる。


「嘘は言っているように見えなかったし……それなら色々と納得できることもあるから」

「わーい! お姉ちゃん、大好き!」


 再びミスラちゃんが私に抱き着いて来る。


 竜。竜の一族。まさか聖女でなくなりただの人となった後になって初めてお目にかかることができるとは。


 竜という割にはミスラちゃんはどう見ても人間の女の子そのものの姿をしているが、古来より本物の竜は人語を話し、人間の姿を取ることも用意だと聞く。そのくらいの知識は聖女として王城にいた5年間で身に着けた。


 しかし、どうしよう、というのが正直な感想だった。


 奇跡魔法の力を失い、偽物の聖女として全てを失い王城を追放され無一文の私が最初に出会ったのが、竜の少女とは。


「……お姉ちゃん」

「! な、何かしら?」

「やっぱりミスラがいると迷惑?」


 そんな私の感情を敏感に読み取ったのだろう。ミスラちゃんは少し落ち込んだ顔で言う。


 迷惑、なんて、とんでもない。たしかに予想だにしていなかった事実であるのは認めるが、相手が竜の少女であれ、何か困っているのなら力になる。


 それが聖女の心意気だ。繰り返すが今の私は元・聖女であるが、その信条だけは揺るぐつもりはない。


「そんなことないわ。ミスラちゃんがどうしてこの王都に来たのかは知らないけど、私に出来ることなら協力するから」

「わーい! ありがとう、お姉ちゃん!」


 再びミスラちゃんが私に抱き着いてくる。女同士とはいえ、スキンシップがやや激しい。そのあたりはやはり人間の価値観とは違うのだろうか。


 ともあれ、どうせこの先、どうすればいいのか分からなかったのだ。謎の竜の少女。


 その力になってあげるのも悪くはない。竜は元来、神聖な存在だとは先に語った通り、その助けになれるなら光栄なことである。


(竜の少女、ね)


 竜の少女との出会い。これがこの先の私の人生にどう影響を与えるのかは分からないが、困っている女の子を見過ごすわけにもいかない。


 ミスラちゃんの目的などについてはまた仲良くなった後で訊ねるのも遅くはないと思い、とりあえずこの出会いが偽りの聖女である私に何をもたらすのか、天に問い掛けようと思う私であった。


(それにしてもあの力は凄かったわね……)


 先ほどの力を再び思い返す。奇跡魔法ではないようだが、それに匹敵するか、それ以上の力を感じる。

 そんなものがどうして私に宿ったのか。あの力の真実は何なのか。それを私は探ろうとも思った。


「ミスラ? あら、貴方は?」


 そこに一人の少女がやってくる。ミスラちゃんと同じくらいの年頃の少女に見える。着ている服はやはり簡素なものだが、居住まいがミスラちゃんより大人びている。


「リルフ! このお姉ちゃんはね! ミスラを助けてくれたの!」

「そうですか。それは感謝します。えーっと……」


 温和な口調でその女の子は私を見る。名前を知りたがっている様子だったので、


「アルメ。私はアルメよ」

「アルメ様、ありがとうございます」

「アルメお姉ちゃんって言うんだね! ありがとう!」


 とりあえずこの竜の子に囲まれるのも悪い気分ではなかtった。



 ここまでお読みいただきありがとうございます!

 これから先、追放された聖女アルメティニスは新たな最強チート能力を身に着け、成り上がり、追放した者たちを見返していきます!

 追放ものの王道をやりつつ、竜の少女たちとの心温まるやりとりも描いていきます。


 主人公アルメティニスが新たな力の真実を知り無双していき称賛されるのが楽しみ。

 竜の幼女ミスラ、かわいいよ、ミスラ。リルフも気になるよ、リフル。

 これから先、美少女パーティーによるどんな冒険譚が待っているのか楽しみ。

 ここから追放した者たちのざまぁが待ち遠しい。


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