【爆弾と探偵と女子高生】
【爆弾と探偵と女子高生】①
「ふあ……」
女子高生……
「うわ。大きなあくび」
隣にいるクラス委員長の女子生徒が、泉音のほうを見て言う。
彼女たちは
泉音がいる二年二組は体育館の真ん中より少し後ろに並び、前には一年生の後輩が、後ろには三年生の先輩たちが同じように立って列になっている。
『今日は全校集会ということで、最近起こっているニュースについてお話しします。まずは、またニュースで報道され始めたモリアーティと名乗る人物による
マイクを通した校長の声が、体育館に響き渡る。
最近、モリアーティなどと名乗っている人物がいろいろな場所に不審物……いわゆる、爆弾のようなものを置いているのだという。今までに負傷者が何人も出ているというが、泉音にとってはどうでもいい。興味のない話を聞かされるのは、実に退屈である。泉音は手で口を隠しながら、もう一度あくびをした。
すると突然。校内放送を知らせる音が突然スピーカーから流れてきた。
「え、なに?」
「生徒会? でも、今は校舎の方、誰もいないはずだよね……」
ざわざわし始める生徒たちを、男の体育教師が、静かにしろと声を張り上げて注意する。
「なんだろね、泉音……」
「……」
隣に立っているクラス委員の女子生徒が、不安げな顔で泉音を見る。だが泉音は、何も言葉を返さない。
しばしの沈黙のあと、ブツリと、マイクの電源が入れられる音がスピーカーから聞こえてきた。
『……えー。マイクテスト、マイクテスト。聞こえていますかね』
続いて流れてきたその声は、この学校のどの教員でもない男の声だった。
『どうも。わたくしモリアーティと名乗っている者です。どうぞよろしく』
男の声は、のんきにそんな挨拶をした。
「モリアーティ……って、あの、
誰かが言った。周囲がざわつき始める。馬鹿、ドッキリだろ。本物がここにいるわけないって。生徒たちは小声でささやいている。
「これ、放送室ですよね」
「いったい誰が……。俺、ちょっと行ってきます。念のため通報もしますね」
「私、職員室に行ってきます」
若い男の教師が体育館を出て行く。その後ろに続き、太った女性教師も出て行った。
騒ぐ彼らの声などお構いなしに、スピーカーから声は一人で語り始める。
『わたくしの
何もしないままですと、みなさんは一瞬でこの場にいる全員と混ざり合って、
恐ろしいことをさらりと言って、声は最後にこう締めくくる。
『では、わたくしからは以上です。最後の時間を、ぜひ楽しんでくださいね』
そして同じように、ブツリという音が聞こえる。マイクの電源を切った音だ。それきり何も聞こえなくなった。
「……」
体育館の中がしんと静まり返る。
『み、皆さん落ち着いて。担任の先生の指示に従うように。避難訓練を思い出してください。決してパニックにならないように……』
壇上にいる校長が思い出したようにマイクを握り、生徒たちに言い聞かせる。
「な、なあこれ、逃げた方がいいんじゃ……」
どこかの列の中で、男子生徒が言った。
「そ、そうだよ! 爆弾なんて……!」
近くにいた誰かが同意する。だんだん、その波が広がっていく。
「静かに! 騒がないで! 順番に体育館を出るから、落ち着いて」
体育教師がなだめようとする。
「ね、ねえ、あのバッグ……いつからあったの?」
だがタイミング悪く、先頭にいた女子生徒の声が静まり返った空気の中で響いてしまった。彼女は校長がいる横……そこにいつの間にかぽつねんと置かれている黒いバッグを指さしている。
「逃、逃げろ!」
誰かが叫んだ。それを合図にして、
「うわ、馬鹿、押すな!」
「おれが先だ! どけ!」
「走らないで、止まりなさい!」
その声は、パニックになった生徒たちには届いていない。波に押され、教師も出口まで流されていく。
「うわ、わわ……!」
「ちょ……泉音、泉音!」
泉音は前から来た男子生徒にぶつかられ、思わずよろけてその場にしりもちをつく。横にいたクラス委員の女子生徒は前から来た人の波に押され、どんどん遠ざかる。
「泉音、泉音!」
「わわわ……!」
クラス委員の女子生徒の声が遠くなる。泉音は逆走する生徒たちに踏まれないようできるだけ体を丸め、両手で頭を守る。
そのうちどたどたという足音が消えて、周りが静かになった。
「……?」
泉音は頭の後ろに回していた両手をのけ、顔を上げた。
生徒でいっぱいだった体育館には、自分以外誰もいなくなっていた。首を回してあたりを見てみるが、体育館の外から人の気配は感じられない。
「……」
泉音は静かに立ち上がり、振り返ってその場から離れようとする。
と、そのとき。後ろから足音が聞こえてきた。
「……ふん。一人だけ取り残されていると聞いてはいたが。お友達に置いて行かれたのか? それとも、アホほど
声とともに、
「……なんでもいいが。逃げ遅れた
年のころは十三ぐらいに見える。耳にかかるほどの暗めの
その少年の目が泉音を見る。少年は言った。
「……一応、名乗ってやるか。僕は
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