『探偵』もどき・恩貫夜弦の事件譚
ハギヅキ ヱリカ
『探偵』もどき・恩貫夜弦の事件譚
【プロローグ】
【プロローグ】①
「
席に座る裁判長が言い放つ。
「……」
しかし死刑を
「……被告人が犯した罪は主に
裁判長は表情を張り詰め、彼が
死刑を宣告された人物、四家深弦は十五歳から現在の二十七歳になるまでの十二年間に、のべ三百人以上を手にかけた。その被害者の数と彼が
四家は
「それだけの事件を起こしたにも関わらず、本人に反省の態度や
「のべ…………なに?」
裁判長が言うと、彼は首を
「……被告人、最後に何か言い残すことは?」
裁判長が、もう一度聞く。
四家は考えるようにまた頬をぽりぽり掻いてから、口を開いた。
「ぼく……しけいになるの?」
のっぺりとした、子供っぽい声だった。
「あなたは殺人を犯しました。死刑執行は二週間後です」
「うーん。そっかあ……。ぼく、しけいになるのかあ……」
そう言って四家は、またぽりぽりと頬を掻いた。いまいち自分への判決を受け入れたか受け入れていないのか、よく分からない
美しき
四家のちょうど真後ろには、喪服を着た夫婦が座っている。女性の方はハンカチを握りしめ、あどけなく笑った女の子の写真を膝の上に置いている。その隣の男性の方は、膝の上で震える拳を握りしめている。
「被告人。本当に、最後に言い残すことはありませんか?」
裁判長が、遠回しに謝罪の言葉を求める。
「いいのこす、こと……かあ。うーん……」
四家は何かを思い出すように、青い目を自分の斜め上に向けた。
「そうだなあ……しぬまえに、おとうとにあいたかったなあ」
「弟ですか? あなたに弟はいないはずでは?」
裁判長が聞くと、彼は口角を上げて笑いかけ、
「そう。おとうと。ぼくの、おとうとだよ」
とだけ、言った。その意味はこの場にいる誰も分からなかった。
「……傍聴席に被害者の遺族の
「しゃざい……」
裁判長が言う。四家はようやく後ろを振り向いた。ハンカチを握りしめている女性と、こちらを殺す勢いで
そんな二人をぼんやりと見やり、裁判長の方へと首を戻す。そして、彼はこう言い放った。
「しゃざいって、なに?」
その瞬間、ハンカチを握りしめている女性がわっと泣き出した。記者たちがここぞとばかりにカメラのフラッシュをたく。
「
裁判長が
「四家被告の弁護人、何か言うことはありますか?」
裁判長が、彼の弁護人のほうに顔を向ける。
「何もありません」
男は低い声で言い、
「……以上、これで
四家は二人の警官に連れられて退出する。
去っていく彼を、傍聴席にいる二人組が見つめている。一人は六十代ほどの老人で、もう一人は袖をまくったシャツを着た男だ。歳は四十に届かないか、というところに見える。
帽子を脱いでいる老人の右側頭部には髪がなく、大きな縫い痕が刻まれている。四家を見送るその目は、どこか
反対に、隣にいる男は眉間にしわを寄せ、複雑な表情で四家を見つめている。
四家深弦が部屋を出て行く。彼は最後まで、被害者家族に振り向くことさえしなかった。
その裁判から二週間後、
死亡を確認した医師によると、彼の死に顔は、
ともあれ、
しかし四家深弦の死から二週間ほど経った頃。かつて彼が作った物と全く同じ『作品』が、とある広場にぽつんと飾られているのが発見されたのである。新聞社はこぞってこの犯人を四家深弦の
その犯人は
その犯人の出現から四年。彼を
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