第一話 とりあえず入らせろ

「・・・・・・」


雨の中馬車に揺られ、森の奥へと運ばれる。


向かっているのは、”血の館”。

森の奥深くに建っており、何人もの吸血鬼が住んでいるという。


そこに生贄のために送り込まれた少女達は二度と姿を見せることはなかった。


・・・どうなったかなど考えたくもない。


しかしそんな血生臭い館へこれから送り込まれるというのだ。

憂鬱どころの話ではない。


そしてふと、馬車の揺れが止まった。


「つきました。降りてくださいリシェル様」


馬車を引く老人が声をかけてきた。

考え事をしていたらついてしまったようだ。


「そうですか」


黒いドレスを翻し、馬車から降りる。

もうドレスを着ることはないかも知れない。

雨を服が吸い、体に張り付いてくる。


「不快ですわね・・・」


ボソッと呟く。

そして笑顔を作り老人に別れの挨拶をする。


門をくぐり館へ進むと、

案外綺麗にしてあるらしい。

植木なども整えてあり、その辺の貴族の屋敷と何ら変わらないように思う。


「・・・ん?ああ、君が、リシェル・・かな?」


館のドアを開けようと、玄関まで来たところで、館の住人であろう者に会った。


「ええ、わたくしがリシェルです」


ドレスの裾をつまんで、軽くお辞儀をする。


実はここへ来る前に勘当されてしまい、ファミリーネームは失ってしまった。

別にこだわっていたわけでもないのでいいのだが。


「そう。僕はラウルツ・ヒロマリア

よろしくね」


差し出された手を握り、笑顔でこう言った。


「そろそろ中に入れてくれませんこと?」


「あ、ごめん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る