【40】bullet


(Vアーマーの中にいる選手からは、こんな風に見えてたんだなあ)


 操縦する側から見える景色に感嘆しながら、永児は外から呼びかける源三郎に返事をした。


『は、はいっ見えるし聞こえます』


『オーケーだ。こっちもちゃんと聞こえるし通信良好だな。それじゃあ<オペレーション>と言ってみてくれ』


「お、オペレーション?」


 突如、Vアーマーの中に聞きなれない声が響いた。


『ハァイ、ようこそ!アナタ初めて?』


「へ!?」


『アタシ、V.A.Iブイエーアイの<カイ>よ!よろしくぅ~~!』


 男性……の声ではあるが口調は女性だった。いわゆる”オネエさん”というやつだ。


「よ、よろしくおなしゃす」


 反射的に永児が頭を下げると、乗っているVアーマーも一緒に頭を下げる動作をした。


 横から源三郎が声の主であるV.A.Iについて説明する。


『VアーマーにはAIが搭載されているんだ。どの<DELFINOデルフィノ>にも共通のAIが入っていて情報を共有している。

いわばうちの部が使うシステムの統制役だな。Vアーマーの機能全般や関連システムを使うときはお世話になるから、”カイコさん”のこともよろしくな』


「主将、カイコさんはなんでオネエさんなんですか」


 AIのことはゲームや公共施設で使われているので知っているが、こんなキャラ設定になっているAIは初めて見た。


「VアーマーってAIの性格を自由に設定できるんですか?」


『まあ、デフォルトで入ってる男性か女性の声に切り替えることはできるんだが……。

何代か前にプログラムに詳しい先輩がいて、その人がオネエさんな音声をねじ込んだ、らしい。

今でも設定はデフォルトの音声に戻せるし別に強制ではないんだが、先輩が残してったということもあって、なんとなくうちはそっちの音声を使うようになったんだよ。

大会で機体検査を受けるときも特に注意されないし……』


 初めて乗ったときから練習しているうちに、”カイコさん”にしないと落ち着かないまでになるんだよな、と源三郎は語った。


『他の音声は堅苦しい喋り方しかしないせいもあるのかもな。一方でカイコさんは聞いた通りキャラが立った独自の音声パターンになってるんだ。

用があるときはさっきの<オペレーション>っていう指令コマンドで呼び出してくれ』


 マニュアルにも書いてあったが、Vアーマーは他にも様々な指令コマンドで操作できるとのことだった。


 たとえば装甲を外したいときは<ディスアーマー>、プレー中の映像を録画したいときは<レック>と言えば良い。


 あとは乗り手が外にいるときでも引き連れて歩ける<フォロー>などもある(安全上の理由からできる動作は歩行のみだ)。


「了解っす」


『よおし!それじゃあ全員Vアーマーに乗ったな。まずは歩き方から行くぞ』


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