【39】bullet
位置的には人間で言うと肋骨の上半分あたりだろうか。
永児からすると頭の上にある胴体部分の裏で緑色に光るスイッチを押した。
するとウィーンという音を立てて、開いていた胴体部分がだんだんと閉じていく。
閉じていく隙間から、源三郎のにやにや顔が見えた。
「ちょっとびっくりするかもしれないけど、大丈夫だから動かずにいろよ」
それはどういう意味ですかと質問する前に胴体部分が完全に閉じてしまった。
ロックがかかり、さきほど押した緑色のスイッチが赤く点灯する。
永児の視界には今しがた閉じた胴体部分の真っ黒な裏側しか見えない。
左右に見える裏側部分も、主に黒い色の平たいパーツで埋められていた。つまり前方と左右は真っ黒だ。
そういえば、と永児はここに来てふと思った。
胴体部分が塞がれた状態では外が見えない。Vアーマーの中にいたまま、どうやって周りを把握するのかと。
このままではボールを見ることだってできない。
(……どうしよう)
Vアーマーの装甲に手足を包まれた感触を感じながら固まっていると、目の前に青く光る文字で『S.H.V同期中』という文字と、その下に左から右へ徐々に伸びていくゲージが表示された。
『Synchronized High Vision...operating in unison...』
さらにアルファベットの長文羅列が高速で表示されていく。
ぼんやりとそれを見ていると、システム音が鳴ったと同時に永児の両腕や身体に碧く光る、幾何学的な模様が現れた。
サポーターの差し色になっている部分も同じように淡く光り出す。
「なんだこれ!?」
両手を見ながら素っ頓狂な声を上げていると、文字の下に表示されたゲージが右横いっぱいに伸びた。
同時に『同期完了』という文字が点滅し……一瞬にして視界が切り替わった。
「おわっ!?」
さきほどまで真っ黒だった前方と左右が明るくなり、外の景色が映し出されたのだ。
何が起こっているのか永児にはまるでわからないが、とにかく、外が、見える。
「なんだこれカメラ映像?けどそれよりも全然リアルだ……」
周りの景色だけでなく自分の腕さえはっきり見える。隣に立ってこちらを見上げている源三郎の姿も。
おそらく外の映像を映し出しているのだろうが、テレビで映像を見ているのとはまた違う。
画面を通して観る映像の平べったいような感じはなく、窓から景色を見ているような感覚に近い。
質感や空気感でさえ肉眼で見ている感覚とほぼ変わらないほどの再現性だった。
『竜村―どうだ?こっち見えるかー?』
源三郎がにっこり笑いながらぶんぶんと手を振る。
その後ろから『ゴラ灯ィ!まだそこは勝手に触るなァ!』『だって気になるんだもん!』と騒ぐ声が聞こえる。
その向こうでは『ふああ!?』とVアーマーの中で驚いているのであろう蓮奈の声が響き、『落ち着いて。大丈夫』とゆったりなだめる聖歌の姿が見えた。
リアルに見えるだけでなく、外の様子や音声もちゃんと内部に届く仕組みになっているようだ。
しかもこれまた驚いたことに、外にいる他のVアーマーの胴体部分は透過され、中にいる部員の姿までも見える。
これならプレーするときでも、誰がどの位置にいるのか一目で確認できる。
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