はじめの一歩・Vアーマー編
【35】bullet
永児が待ちに待ったアーマーバレー部での練習が始まった。
部活の練習はもちろん、体育館の中で行われる。
入学式の日に永児が忍び込んだ、あの個性的な見た目の体育館だ。
「やあ、これは賑やかになったね」
二十代後半くらいの男性が整列するアーマーバレー部の部員たちを見て微笑んだ。
折り目正しくお辞儀をし、初対面の1年生たちに向かって自己紹介する。
「僕がアーマーバレー部の監督をしている、
高校の部活の監督だから中学校の時の監督よりも、もっと年がいっているに違いないと勝手に思い込んでいたが、実際はもっと若い男性だったので少し驚いてしまった。
千田はジャージを着ているが、この人ほどジャージが似合わない監督も珍しいと永児は思った。
これまで永児が見てきた運動系の活動に所属している大人たちは、身体がごつかったり肌が日に焼けていたり行動がどこか野性的だったりと、いかにも体育会系の特徴が出ているものだった。
だが千田はすべてがその逆を行っている。肌が白くていかにも優男で整った口調も所作も崩さない。
着物を着てお茶を立てている姿なら簡単に想像できるのに。そんな男がアーマーバレーの監督をしているのだから、人はわからないものである。
千田は興味深げな1年生たちの顔を順に見て満足げに頷いた。
「ふむ、ここに来た全員、リストに名前があるな。出だしとしては上々じゃないか」
「リスト?」
なんのことかわからず、4人は顔を見合わせた。永児の問いに千田がいたずらっ子のように微笑んで答える。
「君たち1年生の中には中学生の時に、ここの先輩たちと会ったことがある人もいるだろう?」
永児は中学三年生になる直前の新人戦で、源三郎と出会ったときのことを思い出した。
「僕は目利きには自信があってね。バレーボールをしている中学生の中から、部員候補として見繕った生徒はリスト化してある。
先輩部員たちはそのリストを元に試合を見て回って、気に入った人材に声をかけてもらっていたわけさ」
(……ああ、だから二多宮さんが俺に声かけてきたんだ)
そう納得する永児の横で「だから俺のことも知ってたのか……」と高座が小さくぼやいていた。
「人はいつどこで見つかるかわからないものだよ。皆そうさ」
誰に言うでもなく、聖歌が歌うように呟く。
「監督として選手である君たちにまず最初に言っておくことがある。
僕たちはホワイトコートに行って全国制覇する。
皆もそのつもりで練習に参加してくれ」
「はい!!」
「ぜ、ぜんこく……」
1年生たちは各々返事をしたが、そのあとで蓮奈は小さな声で慄いていた。
基本的に練習内容は普通のバレー部と変わらなかった。とはいえ、練習で全くパワードアーマーを使わないわけではない。
まずはランニングや基礎練習から始まったが、練習の後半でついにVアーマーのレクチャーが開始された。
「それじゃあ、Vアーマーを出すから1年はこのセンサー付きのサポーター
これを着けてないとVアーマーに乗っても動いてくれないから、忘れないように」
源三郎による指示の後、1年生たちに配られたのは
次に両手に着ける黒いグローブ。
グローブの長さは指の第二関節下から手の甲の上半分まで、と比較的浅い構造になっている。
そして音声をやり取りするためのインカム。こちらはイヤーフック型になっていて耳に引っ掛けるようにして装着する。
永児たちがそれぞれサポーター類を付けている間に、先輩たちがばたばたと走っていき、巨大な鉄製の扉を全開にして倉庫の中へ入っていった。
「ねえねえ、このグローブ、シールみたいに貼り付くの面白いね!」
「こんな薄いのにセンサーが入ってるなんて不思議だよね」
灯と蓮奈がぺたぺたとシール状のグローブを触りながら喋る横で、永児は向かい側に座る健流の方をちらりと見た。
部室に入ってきたときから全然喋らなかったが、今でも黙々とサポーターを着ける作業に徹している。
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