【34】bullet
左利きが嫌いってなんだ……? そんな志向がこの世に存在するのか?
いくつもの問いが、冷や汗をだらだらと流す永児の中で
永児にはサウスポーであることで恨まれる覚えは一切ない。
だが一つ、はっきりと感じるのはこのままでは命に関わるということだ。
なんでもいい。永児が左利きであることから話を逸らさなければ、たぶん、入部する前に消される。
「あ、明石先輩は……!? 先輩みたいな普通のバレーで凄い人が、どうしてアーマーバレー部に入ったんですか!?」
「あん?」
永児の問いにぴくりと晶が反応した。一度大きく息を吸い、ふーっと深く吐く。
そして次の瞬間、硬く拳を握った晶がどん!と名乗りを上げる武将のような勢いでその胸の内を明言した。
「そりゃあ……月でバレーしたいからに決まってるだろ!
宇宙に出て! でっかいコートでバレーしたい! バレーボール好きなら誰だってそう思うやろ!」
部室中に響く晶の声に、永児も大きく頷いて拳を握りながら叫び返した。
「思います! 俺も月でバレーしたいです! 行きたいです! 全国!!」
「ヨシオマエ、イイヤツ!」
晶がビシ!と永児を指さし「良い奴」認定する様を見て、周りが「通じ合えた……!」「良かったー」と胸をなでおろす。
「お姉ちゃんって、バレーについての会話だと知能下がる傾向あるよね」
「素直なんだよ。バレーに対しては」
灯の呟きに「うんうん」と菜乃花が頷き、心の内で「なんとか命が繋がった……」と冷や汗をぬぐう永児と晶が硬く握手する。
「まあ、前はさ、20人はいたんだ。部員」
落ち着いたところを見計らって源三郎が目を伏せながら、静かに言葉を吐き出した。
「一時的ではあるんだけど監督が不在になって……それで練習もテンションが落ちて行って部員がどんどんやめてった。
それでもここに集まってくれた皆で勝ち抜くと俺は決めてる」
その声は至って平らな水面のごとく落ち着いていた。
誰の耳にもどこか諦念のような、嵐が過ぎ去った後のような、半ば運命に従順な響きを覚えさせただろうと思う。
だが、確かに
遠い深みの底にいる不気味な何かが、暗い眼差しを
どうしてそんなものを感じたのか、永児には全くもってわからない。
ただ……一つ確かなことは、よく似た同じものを永児も飼っているということだ。
どん詰まり、やるせなさ、焦り、気負い、覚悟、恥ずかしい、苦しい、呻き、泣き、軋み、ああ、結局はどうにもならないんだ――いやだやめてやめていやだいやだ――――ああ、いい、ああ、いやだ、いい、そうだ歪むだめだ歪みだめだだめ――――歪み――――歪み歪み歪み……そしてほんの少しの哀しみ……。
永児の中をチリチリと炙り続ける、永児の中だけの愛おしい修羅場。
両膝を抱えながら、源三郎の話に耳をかたむける永児の顔にほのかな笑みが浮かんでいた。
きっとそれがここにも在るのだろうと。
「今年から監督も無事戻ってくるしな!
何はともあれ、鹿島能登高校アーマーバレー部、完全復活だ!」
「オオーッ!」
源三郎が高らかに宣言し、部員たちが元気よく返事する。その後で間を置かずに菜乃花が「あ、ちなみに」と声をあげた。
「
剣呑なオーラをまき散らす副主将の警告に、源三郎の「……アス」に続いて部員たちの返事がまばらに続いた。
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