【31】bullet
人数分のお菓子も出し終え、部員たちは輪になって座布団の上に座っていた。
先輩と新入生合わせて十一人と、それなりに人数がいるので「この流れで自己紹介やっちゃう?」というツインテールの提案により、輪の半分ずつで先輩と新入生に分かれて座る形になっている。
まずは言いだしっぺからということなのか、先に提案を出したツインテールの女生徒が口を開いた。
「二年の
とは言っても特別私が上手いってわけじゃないよ。
うちの部はだいたい二年から副主将選ぶの。特別上手なのはこっちの晶の方だから」
そう言って菜乃花は横に座るクールな雰囲気の女生徒を手で指した。
先ほど部室の罠らしきものを発動させた灯に説教をした姉妹の片割れである。
「二年の
「……」
それ以上の言葉が晶の口から出ることはなく、室内が沈黙に包まれた。
「もう晶ってば、そこで流れを切らないでよ。もっとこう、言うことあるでしょ」
「なにを? ……コンゴトモヨロシクとか?」
菜乃花の指摘にも晶はどこ吹く風である。
もしかすると見た目どおりに、普段はあまり口数の多くない人なのかもしれないと蓮奈は思った。
「お姉ちゃん、まじで空気読むクセ付けたほうがいいよ」
「灯、うっさい」
(そういえば<明石晶>って……)
蓮奈は晶のフルネームを聞いてあることを思い出した。
「あの明石さんて、学生の女子バレーで有名な人じゃなかったですか……?」
「え? そうなの?」
「うひゃ! え、えと、う、うん。多分……」
隣に座る竜村に覗き込まれておっかなびっくり、ぎこちなく頷きながら、蓮奈は記憶を辿る。
蓮奈の通っていたバレーボールクラブで、晶の名前を聞いたことがあったのだ。
すでに中学時代から晶は腕のあるセッターとして、他校からも注目を集めている選手だったはずだ。
「そうそう<北陸の魔女>って言われてるもんな」
バンダナの男子生徒がにこやかに頷く。
「ほ、本物……!?」
噂で聞いた<明石晶>本人であることが確定して、蓮奈は思わず後じさった。
そんな有名人が何でもない顔をしてまさか目の前にいるとは……そして同じ部の先輩になるとは。
どこでどんな出会いがあるものか、わからないものである。
横に座る竜村も「すっげえ!」と声を上げて前のめりになった。
「へえぇ」と言いながら見ている竜村に、「じろじろ見るな」と晶が虫を追い払うかのようにしっしっと手を振る。
ちなみにバンダナの男子生徒いわく、副主将の件を晶にも一度打診してみたものの
「興味ないです。そういうのは菜乃花の方が向いてると思います」と即行で断わられたという。
蓮奈はまだ部員たちのことをよく知らないが、晶の言ったことはなんとなくわかる気がした。
バレーボールが団体で行う競技である以上、自分の役割をこなしてチームワークを発揮する必要がある。
要は持ちつ持たれつということだ。その中で人間関係を上手く調整できる人材は、確実にいないよりもいてくれた方が良い。
チームワークで勝ちにいくならば、誰か一人が強ければ良いという単純な話でもない。
人の輪をまとめたり間に入ったりするといった仕事は、たしかにマイペースそうな晶よりも菜乃花の方が向いているように見えた。
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