【30】bullet


 しかも開閉音がするのはレバーの横の壁だけではなかった。


 あちこちから音がするので視線を向けてみると、部屋にある他の壁やらさらには床の間の段になっている所からもだ。


 どんぐり眼の女生徒が上げる「あは、あははは」という楽しそうな笑い声と共に、部屋の至る所からバタバタと開閉音を立てながら槍が飛び出してきているのだ。


(これって……なに? 罠?)


 昔遊んだ、トレジャーハンターが主人公のゲームで嫌というほど見た。


 壁か落とし穴に槍が仕込まれていて侵入者を串刺しにする、アクションジャンルではもはや伝統芸と言って良い系統の罠である。


 ゲームでは見慣れているが、実際に目にすると体が硬直して避けるどころではない。


 だが問題はなぜアーマーバレー部の部室に、こんなものが設置されているのか。


 そして今、出し入れされている槍は本物なのか偽物なのか。まさか他にも罠があるのか。


 頭が追いついていかず、逆に思考が真っ白になっていくのを感じる。


 そこへ一瞬鋭い眼つきになったあと、凄まじい速足でやってきたツインテールの女生徒が素早く割り込みレバーを停止させた。


「ゴルァ、あかりィ! 勝手に部室の中をいじるなって言ってあったろ!」


 小柄で切れ長な眼のショートカットが、クールそうな顔つきのわりに荒っぽく注意を飛ばす。


 一方で灯と呼ばれた女子生徒は、注意されても慣れているのかどこ吹く風といった様子だ。


「レバーがあったから、何かなーって思って」

「何のレバーかわかんないのに押すなっ!」

「わかんないから押すんじゃん! 押せばわかる! 以上!」

「だ、か、ら! 押すなっつーの! その論理がぶっ飛んでるわ!」


 騒がしく押し問答する姉妹の横で、ツインテールがふいーっと手で額をぬぐっている。


「危なかったー自動運転、解除しておいて良かったよー」


 結局あの罠のようなものは何だったのか、手動だけでなく自動でも動くのか、いや見るべきはそこじゃないのか、茫然としながらも頭の中に様々な疑問がこだまするが、蓮奈には尋ねる勇気が無くただ震えていることしかできなかった。


「あのー気になってたんですけど、ここって茶道部の部室ですよね? なんでアーマーバレー部が使ってるんですか?」


 灯と呼ばれていた小柄な少女の疑問に、長身の先輩らしき男子生徒が答えた。


「ああ、俺たちの監督、茶道部の顧問もやってるんだよ。

あとここの部員の瑠衣ちゃんが俺たちのマネージャーもやってくれてるんだ」


 紙皿を持って歩いてきたポニーテールの女生徒がぺこりとお辞儀をする。


「二年の一樹瑠衣いちきるいです。茶道部兼アーマーバレー部のマネージャーやってます。

この部屋が皆共用の部室になるから、着替えとかもここを使ってね。女子は右奥の襖の向こうが更衣室になってるから」


「マネージャーさんだったんですね!はじめまして!」

「はじめまして。よろしくお願いしますっ」


 元気の良い灯の声につられて蓮奈も挨拶する。


「よろしくね」と笑顔で二人の挨拶を受け取った瑠衣は「それじゃ、好きなところに座ってね」と座布団の方へ蓮奈たちを促した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る