【29】bullet


「おーす、お疲れー」

「おっもう他の新入生来てるのか。丁度良かった」


 後ろを振り向いたバンダナ男子に「入ってくれ」と言われ、入り口から顔を覗かせたのは、これまたひょろりと背の高い男子生徒だった。


 先に入ってきた長身の先輩らしき男子生徒の方が背は高いが、呼ばれて入ってきた男子生徒も180㎝以上はあるだろうと思われた。


「主将、石動いするぎさん、ちわーす!」


 先に入ってきた二人はどうやら先輩らしい。


 主将と呼ばれたバンダナの男子生徒と190㎝はあろうかという男子生徒のところへ、さっきまで静かにしていた竜村が駆け寄っていく。


「おー竜村、女子にすげえ囲まれてんな」

「その、女の子がいっぱいいて……身の置き所が無かったっす」


 ピュアか!と長身が笑う横で、竜村が後ろにいる男子生徒の方へ視線を移す。


「後ろの方にいるの、新入生ですか?」

「ああ、なんか部室の近くにいたのを捕まえてきた」


 バンダナを付けている男子生徒がにんまりと笑う。


 ということは入部希望者ではないのではないか……そんな疑問が蓮奈の頭によぎったが、誰も突っ込まなかった。


 連れてこられた新入生男子の方を見ると、虚ろな眼をして床を眺めていた。

 もはや全てを諦めた……そんな表情である。


「あらま、もうこんなに人が来たの?」


 見ると蓮奈を出迎えたポニーテールの女生徒が、眼を丸くして奥のふすまから出てくるところだった。


 両手には三枚ほど座布団を抱えているが、今部室にたむろしている人数に対してとても足りそうにない。


 その姿を見た男子生徒たちが手伝うべく、残りの座布団を取りに襖の方へ向かっていった。


「おうまかせろ! どんな手使ってでも部員集めるつもりでやってるからな」


 バンダナ男子がにっかりと笑いながら、「俺が持っていく」とポニーテールの女生徒から座布団を受け取る。


 その笑顔は快活ではあったがどこか凄みを感じるものがあり、蓮奈は少したじろいだ。


「わかってますけど、あんまり無茶はしないでくださいね」


 どこか遠い眼をしながら、ポニーテールの女生徒は床の間の近くにある棚の方に向かっていった。


 棚の中には来客用に使うのか(あるいは部員が食べるのかもしれない)、お菓子の詰まったパックがあり、紙皿を出してその上にお菓子を載せていく。


 蓮奈も手伝いに行こうとしたとき、どんぐり眼でショートカットの女生徒が甲高い声をあげた。


「わあー!なにこれすごい!忍者屋敷みたい!」


 声のした方を見てみると、ショートカットの女生徒がきらきらした眼で、部室の壁に備え付けられたレバーを上下に動かしていた。


「え」


 レバーの動きに合わせてその横にある木製の壁も開閉している。


 だがそれだけではない。


 壁の中から飛び出してくる無数の……あれは……見間違いでなければだ……。

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