【27】bullet


 放課後、蓮奈は早速ポスターに書いてあった通りに、学校の茶道室へ向かった。


 茶道室と書かれたプレートのある扉は、格子にすりガラスが貼ってあり、他の教室の入り口と明らかに様子が違う。


 蓮奈は直接見たことはないが、アニメなどで観た旧校舎と呼ばれるような古い教室に似合う、そんな感想を抱かせる扉だった。


「ここ、だよね……? 合ってるよね?」


 きょろきょろと周りを見回すが、他の誰かが来る様子は今のところ無かった。


 担任の教師に茶道室の場所を教えてもらったが、これで間違えていたらどうしようという気持ちが強く迫ってくる。


 けれどここで立ち往生しても仕方がないので、とりあえずノックしてみることにした。


『はーい』


(誰かいる……!)


 返ってきたのは女生徒の声だった。「失礼します」と言いながらそろそろと茶道室の引き戸を開けると、中は完全に畳の広がる和室だった。


「ふわ……」


 教室一つをすべて和室にしているようで、まるで時代劇にでも出てきそうな広さだ。


 花瓶に華を活けた床の間もちゃんとあって<文武両道>と書かれた、掛け軸が掛かっている。


 そして天井近くには<日進月歩>と、これまた達筆な文字が収まった大きな額が飾られていた。


「はい、いらっしゃい。新入生の方? 見学希望ですか?」


 蓮奈を出迎えたのは髪をポニーテールに縛った女生徒だった。


 彼女が放つ柔らかそうな雰囲気に、蓮奈の緊張が少しほどけた。


「ハ、ハイ……あの、ここアーマーバレー部です、よね?」


「うん、アーマーバレー部ですよー」


 やっぱり混乱しちゃうよねえ、と女生徒は苦笑した。


「でもここがアーマーバレー部の部室でもあるから。楽にしててね」


「はあ……」


「とりあえず入って。いま座布団出すから」


「あ、そんなお構いなく……」


「いいのいいの。新入生が来たら、みんな喜んで色々話すだろうし」


 そう言ってポニーテールの女生徒は、部室の右奥にあるふすまを開けて入っていった。


 入り口からは見えなかったが、どうやら襖で仕切られたスペースがあるようだ。


 所在なく立っていると、先ほど蓮奈が入ってきた部室の入り口が、がらりと音を立てた。


「うぃーす、竜村入りま…」

「あ」

「お」


 入ってきたのは昼間、掲示板を探しに行ったときに見かけた銀髪の男子生徒だった。


 男子生徒と認識した瞬間に蓮奈の顔がざっと青ざめる。


(うそ…男子がいる…! まままままさか、部室ここって男子も入ってくるの!?)


 だが考えてみれば、アーマーバレー部のポスターを掲示板に貼っていたのは彼なのだ。


 つまり彼も部員で、部室を使うのは当然なのだが。


(しまった……バレーボールの部活だから、てっきり男女別だと思い込んでた!)


 普通のバレーボールの部活であれば、男女ごとに分かれているものである。


 彼がポスターを貼っていた時点で気付くべきだったが、あの時は声を掛けるかどうかに気を取られていたせいで、そこまで頭が回らなかった。


 とにかくはっきりしているのは、完全に蓮奈の予想とは異なる事態が起きてしまったということだ。


(アーマーバレー部の部室は男女共用なの!? 女子はどこで着替えるの!? あ、待って、もしかしたら茶道部の人かもしれないよね? でも同じ部活の人だったらどうすればいいの!? というか練習も一緒なの? そ、そうだったらどどどどうしよう! クラブには男の子もいたけど、みんな年下だったから、まだなんとかなってたわけで…同じ年頃のリアル男子とどう接すれば……!)


 時間にして0.1秒くらいだが、その間に蓮奈の頭には、混乱の波が次から次へと押し寄せていた。


 そんな彼女の中で起きている葛藤も知らず、竜村と名乗っていた銀髪の男子は上履きを放り投げる勢いで脱ぎ捨てながら、満面の笑みで近づいてきた。


「」


(なんか喋ってる……けど何も聞き取れない……!)


 蓮奈はもう白目になっているが、竜村の方は構わず何やら八つ裂き早に話かけている。


「」


「ふえ…え……」


 蓮奈がかろうじて漏らした、か細い声に反応して竜村の方が「え?」と首を傾げて、顔を覗き込んできた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る