【26】bullet

「うっ」


 蓮奈は学校の男子が苦手だ。見知らぬ男子はもっと、さらに、とことん苦手だ。


(リアル男子だ……! おわあああ! よりにもよって、なんでこんなタイミングで遭遇エンカウントするの!?)


 これまでも彼女は年の近い異性と直に話すのを避けてきた。


 まず第一に現実の男の子が喜ぶような要素を、自分は一つたりとも持っていないことを蓮奈は知っている。


 要はとても容姿が優れているとか、オシャレであか抜けているだとか、可愛らしく見えるようなきゃぴきゃぴした感じはない。


 良くて<真面目そう>と言われるのがせいぜいだ。


 第二に何を話せば良いのか全くわからない。すこぶる愛想が良いとか誰とでも明るく話せる性格でもない。


 わざと冷たい態度を取るわけではないが、いざ話すとなっても何も頭に思い浮かばないのだ。


 むしろ蓮奈は他の女生徒よりもを持っているので、男子にはなるべく近づかないようにしていた。

              

(と、とりあえず、あの人がどくのを待とう。うん)


 息が詰まりそうになるのを、どうにかして落ち着かせようとしていると、銀髪の生徒が貼っているポスターの一文に、蓮奈の瞳が吸い寄せられた。


『アーマーバレー部・求む新入部員!

初心者、経験者もVアーマーに乗ってバレーしよう!

※見学・入部希望者は茶道室へお越しください』


 アーマーバレー部!


 蓮奈が探していた部活だ。そのポスターを貼っているということは、おそらく彼はアーマーバレー部の関係者だろう。


 ここで彼に声をかければ、入部希望の意志を伝えられるはずだ。


 だが彼は蓮奈の苦手な<リアル男子>だ。声を掛けること自体、ハードルがかなり高いのである。


(で、でも! アーマーバレー部に入れなきゃ、約束を守れない……!)


 <あの人>と約束したのだ。いつか一緒にバレーボールをしよう。


 蓮奈は両手を握りしめた。そして意を決して顔を上げ、銀髪の男子の方へ一歩を踏み出した。


「あ、の……」


 文字通り蚊の鳴くような声に男子生徒は振り返った。


「ん?」


 しかしそこには誰もいなかった。


「なんか声がしたような……気のせい?」


 訝しげに廊下を見渡してみても、他の生徒たちは通り過ぎていくばかりで、彼の方を見ている様子の生徒は一人もいない。


 不思議に思ったが特に気にすることもなく、男子生徒は作業を再開した。

 その一方。


「やっぱりダメだ……」


 廊下の角で自分に失望しながら、くずおれている蓮奈の姿があった。



 結局、蓮奈がアーマーバレー部のポスターに近づけたのは、

 銀髪男子がポスターを貼り終え、掲示板から離れて行った後だった。


 やっとの思いで見ることができたポスターを見上げながら、蓮奈は赤い眼をパチパチさせていた。


『見学・入部希望者は茶道室へお越しください』


「なんで茶道室に集まるんだろう?」


 妙な案内文に首を傾げる。確かこの学校には茶道部もあるようだったが、アーマーバレー部と何の関係があるのだろうか。


 むしろ何の関係も無いようにしか思えないのだが、ポスターには茶道室に来るようにと明記されているのだから、今は信じるほかなかった。

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