【25】bullet
その人とは中世ファンタジー風の世界が舞台のオンラインゲームで知り合った。
互いに会ったことは無いので、実際にはどんな人であるのかはわからない。
だけどその人は、蓮奈にとってもはやただの<ネット上の友人>ではなく、<蓮奈に新しい世界を見せてくれた人>だった。
今の自分が在るのはその人がいたから、と蓮奈は断言できる。
この春、鹿島能登高校に入学した蓮奈はアーマーバレー部に入ると決めている。
バレーボールを始めたのは完全に蓮奈の<逢いたい人>による影響だった。
その人は出会ったときからバレーをしていて、いつも楽しそうに話していた。
当時中学生だった蓮奈にとって、学校の生徒たちはこわいものだった。
彼女はただ、別の世界に行きたかった。バレーどころか球技自体がほとんど未経験だったが、だからこそ興味を覚えたのかもしれなかった。
どこか遠くに行きたくても行けない。そんなジレンマを抱えた蓮奈にとっては、見飽きた世界より見たことのない世界の方が大いに心が惹かれた。
誰も自分のことを知らないからこそ、空気のように溶け込める……。
そんな場所こそが当時の彼女にとって安心できる場所だった。
思い切ってバレーボールクラブに通い始め、そして彼女はみごと中学時代を耐え抜いた。学校もちゃんと登校して練習も続けた。
未来なんてどうでも良かったのが一転して高校の進路も見出せた。
進学が決まったことをいつもチャットしているSNSで報告すると、その人も喜んでくれた。
お互いにアーマーバレーをすることはもう話してある。
そして約束した。いつか、会えるようになったら一緒にバレーボールしようと。
だから蓮奈は決めている。アーマーバレー部に入部すると。
彼女はワクワクしていた。新学期が来るたびに学校なんて無くなれと心の中で呪っていたのに。
学校が始まるのが待ちきれないなんて、こんなことは生まれて初めてだ。
入学式は終わったので、次にやるのはアーマーバレー部を探すことだ。
たぶん、掲示板を見れば部室の所在地など、ある程度の情報もわかるだろう。
色々な部活が勧誘のためにポスターを貼っているはずだ。
蓮奈は意を決して教室から出ると、赤いメッシュの入った黒髪を
鹿島能登高校の校舎は一年程前に、老朽化が進んでいた旧校舎の全面的な建て替えが行われたらしく、そのおかげで校舎全体がより近代的なデザインに一新されている。
ゆえに校舎の中も比較的きれいだ。しかし新しい建物だと迷子になる予感が膨れ上がるのは何故なのか……。
不思議に思いながらしばらく歩いていると、いろいろなビラが貼ってある掲示板らしきものが見えてきた。
だが蓮奈の赤い瞳が前方の<大いに苦手なもの>を捉えた瞬間、足が無意識に硬直した。
彼女の視線の先では銀色の髪をした男子生徒が、職員室前の掲示板にポスターを貼っている。
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