アーマーバレー部入部編
【24】bulletーとある一室にてー
うららかな春の日差しが窓から入り込む。
鹿島能登高校の中に複数ある部屋の中でも全面に畳が敷かれ、床の間や襖のあるこの個室は他と趣の異なる空間と言っていい。
吹奏楽部の鳴らす楽器の音が、かろうじてこの空間が外から完全に切り離されたものではないのだと教えてくれる。
イグサの香りが混じる空間に時折静かに茶をすする音が立つ。
和室の中に敷かれた座布団は三つ。
一人は濃い緑の髪をした二十代後半と見える男、一人は少し離れた場所に白黒カラーのジャージを羽織ったポニーテールの少女が座っている。
そして男の向かい側には白い髪色の若い女が座っていた。
グレーのパーカーを羽織り、黒いぴったりとしたパンツに包まれた脚を折り曲げて正座している。
すらりとした手足に引き締まった華奢な体つきをしていたが、それは日常的に鍛えられたことによって造られた肉体であることを男の眼は見抜いていた。
現役を離れてからも、彼女は未だにトレーニングを続けている。
これまで培ってきたバレーボールの勘も失われてはいないのだろうと予想できた。
男はゆったりと構えていて、誰が見ても部屋の主然としている。
対する白い髪色の女性は目の前にいる男の方ではなく、手前に置かれた濃い藍色の茶器に注がれた透明感のある緑茶を、まんじりともしない様子でじっと見つめている。
そんな白髪の心の動きが男にはわかっていた。
彼女自身は今ここに在りながらも、心は遠くなった過去にあるのだろう。
いくら手を伸ばしてもここからは届かない。
それを思い知らされながらも想わずにはいられない。
そんな彼女の心を撫でてあげたいとでもいうような、かすかな笑みが男の口の端に浮かんでいる。
「君にとっても悪い話じゃないと思うがね。
チームが勝ち上がっていけば、いずれ”彼”も無視できなくなるはずだ」
「たとえそうなったとしても…私自身、どうしたらいいのか……。
今だってあの試合で自分はどうすれば良かったのか、答えがわからずにいる……」
白いまつ毛を伏せたまま、白髪の女はぼんやりと呟いた。
「それは追々わかってくるんじゃないかな。"彼"だって今もバレーと離れてないんだから。
現在と過去は違う。
「そのために貴方の元に戻れと?」
「少し違うな。彼らが君の元で学ぶんだ。まずは今の君の視点から彼らを見てごらんよ」
柔らかな笑顔で男は告げたが、白髪は「こんな私から何かを学ぶっていうんです」と乾いた声で首を振りながら脚を崩した。「すいません、もう限界で」と苦笑いする。
「とはいえ、本当にいいんですか?ただの大学生が口を出す様なことして。
部活が出す結果は学校にとっても、決して軽く扱えるものじゃないでしょう」
「構わないよ。ただでさえアーマードスポーツの業界は、人材がまだまだ足りないのだから。
選手たちをサポートする人手が増えるなら、僕としてもありがたい限りだ」
白髪が色素の薄い眼を細めてじろりと男を見た。
「監督」
「ん?」
「まだやるとは言ってませんけど」
「おや、そうなのかい?」
「相変わらずですよね。そういうところ」
この男は基本、優男然としていて人当たりの良い人物だが反面、何気に強引で人が悪いところも持ち合わせている。
彼女は経験からそれを嫌というほど知っていた。
ふう、と女は胸から息を一つ吐き、右手で首の後ろを撫でた。
「こっちも大学があるしバイトもあるんで……。
時間を削ってまで本当にアシストする甲斐があるかどうか、見定めさせてもらってもいいですか」
「なるほど。では、どのような条件で?」
「そうですね……」
ふと視線を上空に彷徨わせたあと、女はえたりと笑った。
「県内強豪・
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