【22】bullet

「まじかよ。ほんとに来たんか……そう言えばお前、源三郎が目をつけてた奴か」

「お前もっと喜べよ! 部員増えるんやぞ嬉しくないんか!?」


 すると見上げるような長身を震わせ、ゆっくりと永児たちに近づいた春満はその長い腕を使い、息も止まらぬ速さで二人をホールドした。


「そんなの……嬉しいよ………………嬉しいに決まってるやろおおおおおお!」

「だろおおおおおおお! しかもウィングスパイカーだぞおおおお!」


 源三郎と春満が叫びながら、その場でぐるぐると回りだした。


 春満の腕にホールドされたままの永児も巻き込まれて一緒に回る。


「なにいいいいいい!ていうか……そういえばこいつ、サウスポーじゃなかったっけか?」

「え、そうやったか? さすがにそこまでは揃ってないやろ」


 永児はウィングスパイカーと聞いて、先輩達が狂喜する様子に目を丸くしていた。


 ウィングスパイカーなんて珍しくもなんともない。


 バレーボールでは基本、コートに出る選手六人の内、三人はウィングスパイカーと呼ばれるポジションだ。


 その中でより実力が認められている花形選手がエースと呼ばれる。


(※昨今では、より攻撃に特化した<オポジット>というポジションが出てきており、三人のウィングスパイカーのうち一人が任されることがある)


 むしろ基本的にチームで一人ずつしかいない、専門技能に特化したリベロやセッターよりも、ウィングスパイカーをやっている奴の方が多いのに……。


 そこまで喜ばれるとは一体。


 疑問に思いながらも永児がもごもごとと遠慮がちに返答した。


「いやあの……実は……サウスポーです」


 春満の腕で頭をホールドされたままだったので、永児の声はくぐもっていたが先輩二人の耳は聞き逃さなかった。


「うおおおおおお!? 左利きでウィングスパイカーやと!?」

「って源三郎! お前そこ大事なとこやろ! 何で見逃してるんだ!」


 すると急に源三郎と騒いでいた春満がハッとした表情になって動きを止めた。


 永児の頭を離し、びしりと人差し指を突きつける。


「おい竜村! お前入部届出すまで、左利きだってバレんようにしろよ!

メシは右手でスプーンとかフォークとか使って食え!」


「え!?」


 突然の指令を受けて永児が固まるのをよそに、源三郎と春満は顔を突き合わせて話を進めていく。


「他の部が狙ってくるかもしれないからな……テニス部とか卓球部とか。

あと空手部とかボクシング部とかもな! 思わぬ伏兵でバスケ部も来るかもな」


「ラグビー部もあるかもしれん……あいつら存在感増して来て常に勢力拡大を狙ってるからな……とにかくだ! 他の運動部には近づくなよ!」


「あ、ハイ」


「とにかくまずは一人ゲットだな!」


 満足そうに頷く春満に続いて源三郎も拳を振り上げる。


「この調子で部員集めるぞ! 流れは確実に俺たちに来てる! 多分」

「多分かよ」

「多分でも可能性無いより良いの! さて、部員も確保できたし、そろそろ出るか。  

竜村、行こう。Vアーマーの乗り方も入部したら教えるから」


 外に出ると聞いて、名残惜しそうな様子を見せる永児を苦笑しながら源三郎が連れ出し、春満が倉庫内の電灯を消してそれに続く。


 鉄の扉が重たい音を立てて完全に閉まった。


 それと同時に並列するVアーマーの後ろから人影がゆっくりと姿を現した。


 ずっと気配を殺して潜んでいたその人物が着る制服の右胸には、桜の花飾りコサージュが付けられている。


 誰もいなくなった倉庫内で、ようやく安堵したとばかりに「ふー」と息を漏らした。


 ついと顎を上げ、目の前に立つ白黒のVアーマーを見る。


 だがその眼光は刺すように鋭かった。

 冷たさをたたえた薄い水色の瞳が暗い倉庫の中で爛々らんらんと輝く。


 その一秒後にがちゃん、と扉の外から金属音が響いた。


「あ、鍵……」


 茫然とした声がぽつりと倉庫内に響くが、応える者は誰もいない。

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