【21】bullet

 永児は深く息を吸って、言葉を吐き出した。


「主将、俺が今までやってきたポジション、ウィングスパイカーなんです。


でも俺も見てのとおり身長が特別高いわけじゃなくて……練習はもちろん一生懸命したけど、今まで自分より身長が高い奴に勝てたことがないんです。


ポジション争いは特に……そんで中学の時、同級生に言われたんです。ガキだって」


「ガキ?」


「そいつは俺と同じポジションで、だけどすごく背が高くて……だからレギュラーでした。

それでも負けるつもりはなくて、俺はもっともっと自主練するようにしました」


「うん」


「中三のとき、練習試合の終わりに皆帰った後も残って自主練してたら、


そいつに背丈のない俺が練習したって、もっと上のレベルからは見向きもされない、無駄だから辞めろって言われて……


俺は試合に出て、コートで一本でも多くスパイク打ちたいんだって言いました。


そしたらあいつは『お前はできないのにやりたいってわめいてるガキと同じだ』って……」


 中学時代、最後の試合を控えた春……体育館の中で番匠に突き飛ばされて放たれた、棘のような言葉。


「ぐっさり来ました。俺……自分のポジション言う時、自分がスパイカーだって言うの内心、自信が持てなかったんです。


 試合には出たいけど背の高い奴より点取れないって思うと、自分でスパイカーだって言うのどこかで恥ずかしいって気持ちがあったんです。


 スパイカーやりたいのに、自分のことを本当にスパイカーだと思えてなかった。


 あいつに本当はやりたいことをやれてないのを見透かされたみたいで……でもアーマーバレーじゃ身長は関係ないんですよね」


「ああ、そうだ」


「だったら俺……もう自分がウィングスパイカーだって言うの、恥ずかしいって思わない。

アーマーバレー部入ったら堂々と『俺はウィングスパイカーだ』って言います。

そんでもっともっと練習します。バレー上手くなるために!」


「ああ、そうでなくちゃな……なんせ俺たちはホワイトコートに行って全国制覇するつもりなんだから、スパイカーには胸張って全力でスパイク打ってもらわにゃならん」


「主将、ホワイトコートってなんですか?」


 通常の高校バレーであれば、全国大会は東京体育館で開催される。


 体育館内のコートの色から通称<オレンジコート>と呼ばれているが、

 <ホワイトコート>という単語は永児も聞いたことがなかった。


「何ってそりゃ月にあるホワイトコートのことだけど」

「へ……? 月!?」


「アーマーバレーの全国大会は月でやるんだ。ああ、知らなかったのか」


 月と聞いた永児が眼をまん丸にするのを見て源三郎は説明した。


「冬に開催されるアーマーバレーの全国大会の会場は月にあるルナセレアドームなんだ。

白い月にちなんで通称ホワイトコートって言ってな」


「じゃあ、じゃあ……全国の予選勝ち抜いたら……俺ら月に行けるんですか!?

月の上で……バレーできるんですか!?」


「そうだぞ! でえぇっかいコートでガチで試合やって、それが月から地球へ全国中継だってされるんだ!

まさにアーマーバレーやってる全ての高校生達おれたちにとっての聖地だ……!」


「すげええええええ!」

「だろう!? 俺も…もう一度あの場所へ行くんだ。絶対に」


「主将は全国行ったことがあるんですか!?」


「ああ、つっても俺はまだ一年の時だったから、先輩に連れてってもらったようなもんだけど」


「おーい源三郎、まだ倉庫の鍵閉めてないのか?」


 倉庫の入り口から響いてきた声の方に振り向くと、とても高校生とは思えない背丈の男が扉から顔を覗かせていた。


 かろうじて生徒だと認識できるのは、学校の制服を着ているからだ。


「おお。こいつが扉開いてたって言うから、やっぱり誰かが合鍵を使ったみたいだ」

「そうか。扉に鍵刺さったままだったから持ってきたぞ。ほい」

「あ、そういえば取ってなかった。悪いな」


 男はすたすたと歩き、長い腕で源三郎に合鍵を渡した。


 そして源三郎から永児に視線を移し、主将の隣に立つ銀髪を見下ろした。


 さすがにVアーマーほどの背丈では無いが、それでも190㎝はあろうかという大きさの人間に近寄って来られると、やっと169㎝になったばかりの永児にとってはかなり威圧的だ。


「誰やそいつ?新入生か」

「おう見ろ春満はるま!こいつ竜村永児、入部希望者や!

中学の試合行脚あんぎゃした甲斐あったわ!!」


 春満と呼ばれた男は、源三郎の言葉を夢現に聞いているような表情で

「入部希望、者……」と小さく繰り返した。

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