【19】bullet
「お前……」
バンダナの男が小さく呟く。
倉庫内は電気が点いていない上に今しがた来た男は、日光を背にしているせいで表情が影になっている。
そのために怒っているのか驚いているのか表情が上手く判別できない。
だが許可もなく勝手に入ったのは永児の方だ。それは自覚しているだけに慌てて謝罪の意を伝える。
「あの俺! 今日入学した一年の竜村永児です! 俺、アーマーバレーやりたいと思ってて……ああああでも中の物には触ってないです! 見てただけなんで! ほんとに!」
どすん、どすんと荒い足音が近づいてくる。
気が付くとバンダナの男が目の前にいて、永児の両肩をぐわしと手の筋が浮き出るほどに強く掴んでいた。
「うっ!」
掴まれた衝撃でつぶれそうな声を上げる永児に息をつく暇も与えず、バンダナの男は至近距離まで顔を近づけ、地の這うような低音で問いかけてきた。
「お前は……入部したいのか、したくないのか?」
「にゅ、入部したいっす!」
「もう一回言ってくれ」
「入部したいっす……!」
「もう一回!」
「入部したいっす!!」
「もう一回!!」
「入部したいっですっ!!」
その瞬間、バンダナの男は叫び声さながらの、いやもはや雄叫びとも言うべき声を上げた。
「おおおお……おおおおおおおお! まじか! ほんとに来てくれたのかあああ!」
興奮する勢いのまま、バンダナの男はものすごい握力で永児の体を掴んだまま上へ下へとシェイクした。
永児の方はなすすべなく、がっくんがっくんと頭を揺らすことしかできず、なんとかギブアップの声を漏らすことでようやくバンダナ男のシェイクが止まった。
「ぜえ…ぜえ…苦しい…」
「ぜえ…ぜえ…すまん。つい、はしゃぎすぎた……とにかく、入部希望の件は了解……したから……」
しばらく深呼吸してようやっと息を整えたバンダナの男は、崩れ切った相好を正して永児に向き直り右手を差し出した。
「改めて三年、アーマーバレー部主将の二多宮源三郎だ。竜村だったよな、よろしく」
「ウス主将、よろしくお願いします!」
握り返した源三郎の手は表面が硬く、軽く握っただけでも力強さを感じた。
「そういえば竜村、お前こんなところで何してたんだ?」
「えーと俺、バレー部がどこにあるのか探してたんです。その内ここが開いてるの見つけて……」
「そうだったのか。……あれ、じゃあ倉庫の合鍵持って行ったの誰だったんだ?
永児がきょとんとするのを見て、源三郎は「ああ、なんでもない」と首を振り、
ところでと居直って話を続けた。
「今日は入学式だったからVアーマーは仕舞ってあるんだけど、見るか?」
「え、いいんですか!」
「早く見てみたいだろ? 今、電気点けるから待ってな」
「はい! あざす!」
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