【18】bullet


 扉を押して館内に入ってみると、これまた洗練された空間に永児は圧倒された。


「うわあ……」


 外から見えた木材は内装にも使われていたが、こちらの方がさらに複雑な組み方で配置されていた。


 白い壁に埋め込まれたガラス窓の間に、バランスよく編み込みのような形の木細工が配置されていて、アーチを描く天井まできれいに繋がっている。


 特に上の方は籠のように組まれた木材が張り巡らされ、その上に白い天井が広がっており、風通しの良さを感じさせる造りだった。


 正直、どうやったらこんな設計を考えられるのか永児にはまるでわからないが、

見通しも良いし、おかげで建物の中を充分に把握できるのはとてもありがたかった。


 これなら迷子になる心配はなさそうだ。


 そして妙なことに気づいた。


 大抵の体育館なら一番奥の方に舞台が設置されているものだが、この体育館にはそれが無く行き止まりの壁になっていた。


 その代わりに、大きなトラックが出入りできそうなくらいの鉄製の扉が、壁の真ん中にでん、とそびええ立っている。


 鍵が閉まっていれば絶対に入れそうにないが、なんというタイミングか……人が一人通れるくらいの隙間が開いていた。


 扉の鍵穴と思われる部分には、誰かが使ったのか鍵が刺さったままだ。


 つまり、今なら簡単に中に入ることができるというわけだ。


 永児の心臓がどくどくと脈打つ。


(勝手に入ったら怒られるかな)


 そんな考えもちらりとは浮かんだが、すぐに好奇心の方が上回った。


 もうここまで来たら入ってしまえ。


 永児は鉄扉の隙間に足を踏み入れた。

 明かりが点いていないので奥までははっきりと見えないが、中はどうやら体育館の備品を閉まう倉庫の様だった。


 だが永児にとって、ここはただの備品倉庫ではない。


 倉庫に仕舞われているのは長いネット、鉄製の支柱、番号の入ったビブス、そしてたくさんのボールが詰まった収納カゴ。


 間違いなく、ここは。


「ここ、バレー部だ……」


 バレーボールの備品に囲まれるのは中学を卒業して以来だ。


 そんなに長く離れていたわけでもないのに、とても懐かしい気持ちになる。


「もしかしてさっき見たのは、バレー部の人かな……」


 バレーボールの備品を仕舞う倉庫の扉が開いているということは、誰かが鍵を使って開けたからに他ならないだろう。


 しかし、倉庫の中には人影など見当たらない。


 永児が入ったときでさえ、誰かが注意しに来る様子もなかった。


 見間違いだったのかと首を捻ったとき、鉄の扉がレールの上を滑りながらゴロゴロと音を立てたので、永児はぎょっとして体を震わせた。


「あ」

「お?」


 永児が慌てて振り向くと、そこにはいつか見た黒いバンダナの男子高校生が開いた鉄扉の前に立っていた。

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