【15】bullet


 部活が解散になった後も永児が自主練で残ると言うと、呆れながらも一応付き添いで、と言いながら伊川も結局残っていた。


「先輩、今日はほどほどにしといてくださいよ」

「お前こそ疲れたならもう帰れば良いって言ってるだろ」

「無理したって良いことないんですからね。今から焦ったって身長が急に伸びないのと一緒ですよ」

「誰も身長伸ばそうと居残りしてるんじゃねーわ。身長無いから練習するんですぅ」

「わかってますよ。熱血な先輩にもちゃんと伝わるように、わかりやすい表現で忠告してあげてる後輩心です」

「……類人猿を相手してるときみたいに言うなや」


 とりあえず伊川の嫌味は無視してボールを出そうとした時、体育館入口にひょろりと背の高い男がいつの間にか立っていた。


「あれ番匠、お前も残るのか?」


 番匠は返事をせず無言で永児たちの方へ歩いていき、立ち止まった。


「じゃあ相手してくれよ! お前のスパイク練にも付き合うから」

「ちょっと先輩……今日頭打ったのもう忘れたんですか!?」


 せめて軽いパス練くらいにしといてくださいよ……と止めに入る伊川を遮る勢いで、番匠が突然口を開いた。


「お前はまだ練習するつもりなのか? いつまでそんな無駄なことしてるんだよ」

「……なんだよ。そこまで言うことないだろ」


 さっきから小言ばかり言う伊川と同じように、今日は鼻血まで出したのだからと

早く帰らせるために番匠はそんなことを言ったのだろう、と永児は解釈した。


 だが違った。


「無駄だろ。3年最後の試合にもスタメンで出れないのはもう確定なのに、練習なんかする意味ないだろうが。

ベンチでわざわざ居残ってまで練習してるのお前ぐらいだぞ」


「ああ?」


 永児とて好きでベンチにいるわけではない。

 ベンチから上がる方法はだから、こうして残っているのだ。


 至極当たり前のことをなぜよりにもよって番匠に否定されなければならないのか。


「ベンチだからって練習すんなってか?……!」


「練習したってお前がレギュラー入りできたこと一度でもあったか?

なんでお前がベンチのままなのか気付かないなら教えてやる。

バレーの才能が無いからだよ」


 ぬっと番匠がさらに近づいて、上から永児を見下ろした。


「三年の中で180㎝届いてないのはお前だけだ。

高校行ったらもっと背の高い奴らがバレー部に集まる……。

お前の身長じゃユースとか、それ以上のレベルなら相手にもされないだろうな。

今お前が選手として必要な条件を満たせてない時点でわかりきったことだろうが」


 茫然としている永児の体を、どんと番匠の長い腕が突き飛ばした。


 ろくに反応できず床に尻餅をつく永児のそばに駆け寄りながら、伊川が番匠を睨みつける。


「ちょっと番匠先輩、アンタいい加減に」


 伊川が抗議を言いきる前に永児が飛び出し、冷えた眼で見下ろす番匠の胸倉をつかんだ。


「最後までベンチ確定なんてわかってんだよそんなことは……!

それでも俺は!コートに立ちたいんだよ!

まぐれでも試合に出て、一本でも多くスパイク打ちたいんだ……!」


 だが永児が必死に掴みかかっても番匠の白けたような表情は変わらず、動じる様子は一つもない。



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