【13】bullet
顔面に強打を喰らったものの幸い歩くにも支障はなかったので、永児は羽咋中の面々と一緒に帰りのバスの中で揺られていた。
座っている間、気分を紛らわそうと目をつぶっていたが、やはり試合でのアクシデントが脳裏に繰り返し蘇る。
「あー……」
監督の気まぐれでも試合に出られると思ったらこれだ。
顔面にボールをもらうだけならまだしも鼻血まで出るとは。
うだうだな気分で座っていると、バスが停車し隣に座っていた男性が立ち上がってすぐに、軽い調子の声が永児の耳に入り込んできた。
「竜村先輩、隣座っていいですか」
声の主である後輩の伊川は、永児の答えを待たずにどっかりと隣の席に腰を降ろした。
「あー足いてー」
「お前、試合に出てないやろ」
「それでも立ちっぱなしで応援してましたよ! ベンチ仲間の先輩ならわかってくれると思ってたのに」
「お前……もうちょっとオブラートに言うとかあるやろ」
「じゃあ低身長仲間」
「なんでそっちにした? 1ミリもオブラート使われてないやつじゃねえか。あと俺はそこまで身長低くない!」
「バレーボールじゃ180いかない俺らは低身長です」
伊川は一つ下の後輩だが誰に対してもこの調子だ。
人が気にしてることでも、容赦なくつついてその上ふてぶてしく開き直る。
こっちが少しカチンときて威嚇しても、憎たらしいくらい動揺しない。
入部当初からだったのでもう慣れつつあるが、これは慣れていいものなのかと永児は思う。
「それより先輩、鼻血はもう大丈夫ですか」
「うん、さっき見たらまだ血はついてた。けど、止まってきてると思う」
すぐ止まると思ったが、少量ではあるもののまだ出血はあるようだった。
もしかしたら思ったより鼻の中が切れてるとかかもしれない。
悪くてもそれで済んでほしい、と内心祈り続けている。
「はあ……せっかくの練習試合だったのに、なんで鼻血なんか」
「先輩にスパイクしたの和倉中のエースでしたよね。あれは完全に先輩を意識してたでしょ。後で謝ってはきたけど」
「俺が何したんだよ……」
ずるずると背もたれに体を沈める永児に、先輩はそのままでいた方が幸せかもですね、と伊川は生温い目をして呟いた。
どういう意味だ、と問おうとしたとき、伊川が永児を見ながら言い放った。
「俺だったら竜村先輩にもトスするのに」
伊川のポジションはセッターだ。
羽咋中の正セッター候補は伊川だけなので、三年のレギュラーが引退すればベンチから卒業するだろう。永児にしてみれば羨ましい話である。
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