【11】bullet
(よりにもよってなんで相手も身長高いやつ揃ってるんだよ! 全員今すぐ縮め! 30㎝縮小されろ!)
たとえ緊張を最小限にできたところで、やはりいかんともし難いのは身長差である。
バレーボールもいくつかの球技の例に漏れず<高さが有利になるスポーツ>だ。
身長差があればあるほど、力ずくでスパイクを決めることは困難になる。
ないものねだりとわかりつつも、自分にも番匠のような長身があればと心底思ったのはもう何度目か知れない。
「ふーっ」
急いで頭を切り替える。
(無い無いと思ってプレーするよりも、自分にできることで試合に臨む方を取る)
日頃練習を積んでいるのはそのためだ。できることを増やすために。
相手側のコートを見据える永児に向かって、羽咋中のメンバーからエールが飛ぶ。
「竜村ナイッサー!」
それにひよるのはまだ早い。
こっちがサーブする時は唯一ブロッカーに邪魔されないのだ。
今こそ見直した筋トレの成果を見せる時でもある。
「あの位置……まさか」
和倉中のメンバーが呟くと同時にホイッスルが鳴った。
コートの
それと一緒に踏み込む一歩。
(よし! タイミング良い!)
下から両手を振り上げながらどん、と床を蹴る。
思い切り弓なりに沿った体で溜めたパワーが、最高点でボールに叩き込まれた。
(なんだあの体勢、どんだけ背中逸らすんだよ!?)
和倉中の選手が心の中で驚愕の声を上げた途端に、ボールが音を立てて床を弾んでいった。
「サービスエース! ナイッサー!」
「竜村ナイス!」
「っシャアす!」
ガッツポーズをする羽咋中の面々の声で、固まっていた和倉中の方はやっと我に返った。
(あのベンチ野郎、ジャンプサーブ打ってきやがった……高校生かよ……いや高校生でもあんなの打つか?)
リベロが歯をきしませる横から、和倉中のエースがその肩を叩いた。
「ここまでやるとはな」
「ったくなんなんだよあいつ……」
「焦るな。さっきベンチからスパイクされた時みたいに、全く取れないってわけじゃないんだろ?」
「まあ……もちろん取るけど」
「さっさとサーブ権取り返すぞ。高さはこっちに分があるんだから、そっちで叩き落とせばいい」
「
「あ、すまん」
ホイッスルが再び鳴った。
バレーボールではサーブ権を持っている側が得点すると、再びサーブ権を得ることができる。
さきほど
トスを上げ、母指球に体重を乗せ、飛び上がったと同時に体を思い切り反らせる。
「また来るぞ!」
ドン!と音を響かせ、永児の放ったボールが相手コートへ突進していく。
「さすがに3度目は……」
和倉中のリベロが前へ飛び出す。
「取らせねえんだよぉ!」
アンダーレシーブで受けたボールが上空へ高く上がった。
果敢にリベロが打ち上げたことで、チャンスボール!と和倉中のメンバーが一斉に色めき立つ。
(あぶねー……あいつの強打先に2回見れてなかったら、その分も点取られてたかもな)
安堵したものの一瞬遅れて、両腕がじんじんと受けたサーブの衝撃を伝えてくる。
(くそいってえ! なんつーパワーしてんだあのゴリラ!)
セッターが上げたボールを見て、和倉中のエースがスパイクする体勢に入る。
その気配を察して羽咋中のブロッカーが二人、待機してジャンプする。
ネット際の位置だったのでブロッカーは、エースから見て右手の
和倉中のエースの内側にボールを入れにくくすれば、ブロックが躱されてもギリギリストレートにスパイクを打たせてコースアウトを狙える。その算段だった。
この体勢ではおそらくライン端に打たざるを得ないだろう。
誰もがそう思っていた。永児も同じだった。
「え……」
そう思った時には体が後ろ向きに倒れていた。
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