【09】bullet
「ボール早すぎやぞ……こんなのを毎回レシーブすんのか」
そう思っている最中にも、動画は永児の眼に信じられない光景を映し続けた。
実際に打てたら超高校級どころではないスピードのボールで、コートにいる12機は各々の技と動きを駆使して応酬を繰り返す。
スピードがおかしいのはサーブだけではなく、スパイクも速攻もだった。
ブロッカーやレシーバーの腕にボールが当たる音を聞くたびに、パワードアーマーに乗る意味を永児は少し理解した。
あんなスピードのボールを毎回直に受けていたら、確実に人間の腕はダメになるに決まっている。
『チャンスボール!』
『前前前!』
鹿島能登高校のセッターと思われる機体が、レシーブされたボールを見てトスの体制に入る。
トスが上がったと同時に後ろから助走した機体が金属音を響かせて飛び上がった。
「高い……」
思わず口から言葉が漏れた。
アーマーバレーに身長差は関係ないと二多宮から聞いていたが本当だった。
どの機体もチームカラーや外装などによる形状の違いはあれど、高さは統一されている。
同じ身長で打つ側と防ぐ側の攻防戦になった場合は……自力でより高く飛んだ方が、コート内の制空権を勝ち取ることになる。
『竜弾来るぞ!』
『ブロック3枚!』
そして今、打つ側と防ぐ側でより高く飛び上がったのは、肩に03と番号が描かれた打つ側の方だった。
振りかぶって打つ体制から、右の掌をボールにミートさせる。
その時、永児は有り得ないこととわかりつつも風が巻き起こるのを見た。
三層の空気の穴が広がり、それを通り道にして加速したボールが一気に降下する。
相手側ブロッカー3人のうちの1人がかろうじてボールに手を当てたが、勢いを殺せず後ろへと転倒した。
「すげえ……スパイクでブロッカーあんなにぶっ飛ばしたのか……!!」
普通のバレーボールであれば、スパイクを受けてブロッカーが背中から転倒する光景などほぼ有り得ない。
仮にあったとしても、そうそうお目にかかれるものではない。
アーマーバレーは想像以上の激しさだ。
スパイクを受けた奴はブロッカー以外でも転倒するし、アーマーのパーツが途中剥がれる奴もいるし……。
それでいて高速のボールを落とさないために全員が動き回っているのを、見ているこっちの息が詰まってハラハラする。
試合の動画はダイジェスト形式で編集したものだったらしく、全編は流れなかったものの永児は一瞬も目を離さず夢中で見ていた。
こんなバレーボールがこの世にあることを知った衝撃が永児の体を巡り続ける。
『ぜひ我がアーマーバレー部に入部を! ご検討よろしくお願いいたします!』
動画が終わってもまだ余韻は消えなかった。
鹿島能登高校のプレーは速攻も凄かったが、なんといってもあの強烈なスパイクでブロックを打ち抜いたアタッカーの姿が、永児の中で未だ鮮烈に焼き付いている。
「くああああああああ……!!!」
永児は枕に顔をがんがんと打ち付けた。それでも足りず頭をかきむしった。
いつもなら試合があった日の夜はネジが切れたようにすぐに寝てしまうのに、
今はもうすっかり興奮しきったこの気持ちを、どう処理していいのかまるでわからない。
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