【07】bullet


 このVアーマーに乗っている選手は身長が高いのだろうか? それとも低いのだろうか?


 だがどちらにしてもアーマーバレーには関係ないのだ。


 このプレイヤーが持っているのは、世界に通用するメンタルとフィジカルとスキル。

 アーマーバレーで問われるのは、バレーボールをどこまでできるか。


 永児はふと思った。アーマーバレーをする連中はどんな奴らなのだろう。


 従来のバレーボールではなくアーマーに乗ってバレーをすることで、彼らはその向こう側に何を見たのかと。


(そして……どれだけ強いんだろう)


「まあパワードアーマーに乗って、スポーツをするのは邪道って考えもまだまだあるけどな。

だけどアーマーに乗ることで、できるようになることはたくさんあるんだ。

試合がテレビとかネットで配信されてるの、見たことないか?」


「……あ、スマホ見入っちゃってすみません。ありがとうございます。」


 ふと浮かんだ疑問で意識が逸れていたことに気づき、永児が慌ててスマートフォンを返すと二多宮は満足してもらえたなら結構、と柔らかく微笑みながら受け取った。


「俺自主練するからテレビはあんまり見ないです。

うちはネット見るの制限されてるし、携帯で動画見たら料金高くなるって親が言うんで」


「ふむ……。そうだ、録画した映像は見れる?」

「うん。ノートパソコンあります」

「よし。じゃあこれ」


 そう言って二多宮が足元に置いたスポーツバッグをごそごそと漁る。


 そこから取り出したのは透明ケースに入った一枚のディスクROMだった。


「うちの先輩が全国行ったときの試合なんだけど、良かったら見てみてくれ。

それでさ、もし……少しでも興味が出たら考えてみてくれないか。うちでアーマーバレーやるの」


「へ……?」


 思わず永児は二多宮を凝視した。


 そこにいたのはこれまでの好青年的な空気を纏った高校生ではなかった。


 暗い穴のそこから立ち昇る……じっとりとした、しかし確かな熱を持った火のようなもの。


 そんな気配を青い目の中にたたえる男を見て永児は思った。


 この男は俺と同じだ。<普通>という皮を被りながら、その下で蠢く熱にじりじりと焼かれながら、それをどうにか抑えているのだと。


「お前みたいな諦めない奴、それでいてスパイカーやってくれるような奴が欲しいんだ」


 お前が欲しい。力が欲しい。強さが欲しい。


 他のチームを唸らせるそんな力が。


 永児が二多宮の顔から視線を外せずにいると、目の前の中学生が固まっていることに気付いた二多宮は慌てて両手を振った。


「ああいや、まだ中学生だし今からこんな話するなんて気が早すぎるよな!

でも俺ももう高二になるから……早めにこれは、と思う奴に声かけておかないと、

他の強豪に部員候補取られるの目に見えてるからさ」


 ここまで力への執着を感じさせる男が、まだ高校二年生にもなっていないことに永児は心底驚いた。


「二多宮さんは……そうまでして……勝ちたいんですか」


 目の前の男は静かに、だが躊躇いもなく頷いた。


「ああ、勝ちに行く。アーマーバレーで全国制覇する」

「…………え」


 永児はうつむいた。だが二多宮から出てきた言葉の衝撃に心は震えていた。


「…………全国、制覇なんて……言えるんだ。俺みたいな、見ず知らずの奴にも……そんな堂々と」


 自分は先ほどまでバレーボールを続けられるかどうかを悩んでいたが、この男はそんな地点は既に通り過ぎ、全国を相手に戦うことを見据えている。


 二多宮の青い眼の奥に海が広がっているとしたら、どこにも行き止まりは存在しないのではないか。


 愚痴でしかないような話も嫌な顔一つせず鷹揚に聞いてくれた。


 全国制覇するという決意表明もすごく様になっていた。


 自分がそんな大それたことを言ったところで、二多宮のようにビシっと決まるとは思えない。


「はは」


 永児の喉からは乾いた笑いしか出てこない。完敗だとしか言いようがなかった。


(全国か……)


 だが同時に体の芯が奮い立っていた。


 居ても立っても居られない衝動に似た何かが、今度は熱さとなって、永児の血を沸き立たせる。


(本当の本気で言ってるからあんなに決まるんだろうな……。

俺もこの人みたいにカッコイイ台詞が似合うプレーヤーになりたい……)


「竜村」


 呼ばれた方を見るとジャージに着替えた番匠が離れたところに立っていた。


「あ、番匠。わりい、もう集合か?」

「早くしろ。もう皆集まってるぞ」

「やべ! 俺行かなきゃ」

「ああ、聞いてくれてありがとうな。中学最後の一年がんばれよ」

「はい! あ、あの!」

「うん?」

「偉そうなこと言うつもりはないんですけど、できればその、二多宮さんにバレー辞めないでほしいなって……だから……頑張ってください!」

「ああ、ありがとうな」


 がばりと九十度に体を折り曲げて激励を送る永児に、好青年的なにっこり笑顔で二多宮も別れを告げた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 第一章完結です。ここまで読んでいただいてありがとうございました!

 身長が足りなくてもレギュラー入りを目指す永児くんを応援してくれる方は

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