【04】bullet
志賀中との試合は3セット目まで行ったものの、25対20で志賀中の勝利で終わった。
準決勝常連の相手はやはり強かったが、それでも今回の試合の中では一番善戦したと監督は評価した。
試合が終われば後は帰る準備をするだけだ。
着替えて荷物を纏めた永児は体育館内の廊下にあるベンチに座って、今日の試合を思い返していた。
負けたのが悔しくないわけではないが、覚えているうちになるべく思い返して次にやるべきことを見つけておきたい(試合の後は家に帰って夕飯を食べたら、碌に頭が回らなくなるからだ)。
今回の試合、永児は交代で入ることができたが本音で言えば物足りない。
やっぱり試合は楽しいからもっと出たい。
手応えだって感じていた。
スパイカーとしてレギュラー入りを目指しているから、できるだけ筋力とバネを上げるために、永児は去年から
とはいえ、今回その成果が目立っていたのはレシーブの方だったが……。
勢いのあるボールでなく、速度が緩く長く飛んでいったボールを、これまたなるべく高く長くボールを返したい場面ではやはり筋力が必要になる。
(本当はスパイクで役立てるために筋トレしたのに)
スパイカー枠に入りたいと言っても、これじゃあうまくアピールできてはいないだろうなとため息を漏らした。
「なあ君」
このままでスパイクを打つポジションができるのだろうか?
それともまた三年生でもベンチ行きだろうか?
そうなったら自分は……そのままバレーしていても満足できるのだろうか?
「おーい君」
もしも、我慢できなくなったら……辞めたくなったらどうしよう。
「ねえちょっと」
そのときは、俺は。
「おいってば!!!」
「はい?」
声がした方に顔を上げると、肩からスポーツバッグを掛けて黒いバンダナを頭に巻いた青年が永児を見下ろしていた。
「やっと気づいてくれたのね……まあ試合は志賀中が勝ったし、落ち込むのも無理ないよな」
そう言うとバンダナ青年は、永児が座るベンチの隣に設置された自販機の方へ歩いていった。
そして「お茶とジュースどっちが良い?」と永児に問いかけてきた。
ぼんやりと永児がジュースと答えると、バンダナの青年はポケットから財布を取り出し、ペットボトルを二本持って永児のところへ戻ってきた。
「はい。最近の自販機で売ってるドリンクも健康志向だよな。試合中声張ってたし、喉乾いてないか?」
「ありがとうございます。え、と……俺らの試合見てたんですか」
ぐりぐりとペットボトルの蓋を開けて中身を飲みはじめると、甘い果汁の味が体に染み渡るのを感じる。
思った以上に体が乾いていたんだなと今更ながらに気付いた。
「見てたよ、良いレシーブだった。ボール飛んでって皆棒立ちだったのにお前は走って行ってガッツがあるなって」
「そりゃ拾いにいくっすよ。バレーなんだから」
バンダナの青年はその返事の何が良かったのか、さらに前のめりになって食いついてきた。
永児としては普通に答えたつもりだったのだが。
「あは、強豪相手でもそんな当たり前みたいに返事するんだな。うん。やっぱり良いな」
「……どうも」
どんどんテンションが上がっているらしい青年は、にっこと笑って自分の名前を名乗った。
「あ! 急に話しかけて失礼だったよな、すまん。俺は
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