【03】bullet



 志賀中のセッターがボールをトスする。


 ボールの向かう先にはすでに膝を折って、ジャンプの体制にはいっている選手がいた。

 たぶんあいつがエースだろう。


「ブロック2枚!」

「せーの!」


 掛け声と同時にブロックに入った羽咋中の前衛二人が、スパイクに合わせてジャンプする。


 ブロックの手とボールが衝突する音。


 だがボールは勢いを殺さず、ブロッカーの手からそのまま永児たちのコートへ入ってきた。


「ワンタッチ!」


 ブロッカーが叫ぶ。さすが強豪のエースなだけあって、ブロックが二人ついても無理やり打ち抜くのではなく冷静にブロックアウトを狙ってきた。


(※ブロックアウト…ブロッカーの手を狙って打ち、ボールをコートの外へ飛ばすテクニック)


 ボールは高さを失わずコートの外へ向かう。


 このまま場外に出て落ちれば、ブロッカーがボールに触ったのでアウト判定。相手の得点だ。


 ボールは高く弧を描き空中を走りコートの端へ。


「ぐおラァあああ!」


 永児自身、自分の喉から出せるとは思わなかった変な声が出た。


 なんだろう? ぐおらって……。ボールを捕まえようと走りに行ったらそうなった。


 体育館中に自分でもよくわからない奇声を響かせはしたが、渾身の走りから伸ばした左腕がなんとか届き、打ち返したボールはうまくコート内に戻ってくれた。


「良いぞ竜村!」

「カバーカバー!」


 辛くも永児から返ってきたボールを味方がセッターに向けてレシーブする。


 今度はこちら側が攻撃するチャンスだ……それを逃さずセッターはエースの番匠にボールをトスする。


「番匠!」


 呼ばれた番匠がジャンプし、相手側コートに向かってスパイクを打つ。だがブロックされた。


「まだァ!」


 ブロックされてボールが落ちると番匠が思った瞬間、いつの間にか前衛まで戻ってきていた永児がボール下へ回り込んでいた。


 床に這ってレシーブした永児の声と共に、ボールは床に着地する前に上にあがった。


「もう一回!」


 永児の掛け声で羽咋中のチームメイトたちが一斉に動いて陣形を立て直し、スパイクの体制に入る。


「丁寧にいけ!」


 監督の広田がベンチの外から声を張り上げる。


 セッターがボールを上げるのを認めてから、番匠が飛び上がりスパイクを決めた。


 緊迫したラリーの末に得点が入ったのを見て、羽咋中の選手たちが歓声を上げ監督が拍手を送る。


 そんな試合の様子を人がまばらな観客席で眺める三人の高校生たちがいた。


「おお、やっと入ったな」


 三人の中で190㎝近くはあろうかという一番長身の高校生が、喰らいつかんばかりのラリーで勝ち取った羽咋中の1点に感心の言葉を漏らした。


「志賀中みたいな強豪相手じゃ打つのも辛いでしょうねー。羽咋中のエースもう限界近そう」


 長身の左隣の席で、髪をツインテールにした女子高生がくだけた敬語で返答する。


「今のレシーブした奴……」


 次に呟いたのは長身の右隣に座る高校生だった。

 頭に巻き付けた黒いバンダナが、いかにもスポーツ青年といった風情を醸し出している。


「ん? あの長いボール返した奴か? あいつの名前リストにあったっけ」


 長身が足元に置いたスポーツバッグからコピー用紙の束を取り出し、一つ一つめくって確認するのをよそに、バンダナを巻いた男は眼下のコートを見ながらにんまりと口の端を広げた。


「うん。ああいうの俺は好きだな」


 その青い目はコート内で相変わらず声を張り上げる永児に向けられていた。

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