第68話 混合

「しかし、あっついわね・・・」

「頭がぼーっとしてきました・・・立ってるのもしんどいです・・・」

「ど、どうしよう・・・なんでこんなことに・・・」


 真夏のロッカーに漂う熱気。

 頭上で話す美女3名を朧げな視界に納めつつ、俺はぼーっとしていた。


 あっつ・・・まじで・・・。


「御影君、まさかとは思うけど美女3人とロッカーでぎゅうぎゅう詰めになって役得だなんて思ってないでしょうね」

「思ってねえよ・・・仮に役得だとしてもここで死んでちゃ意味ねえだろうが・・・はーっ・・・」


 どれだけ役得でも、学校のロッカーが棺になってたまるか。


「それにしては御影君、だいぶ息が荒いようだけど・・・」

「これは単純に暑さのせいだ。息の荒さで言ったら三人とも――」


 反論すべく、彼女らの顔を凝視する。


「はぁ・・・はぁ・・・」

 

 藍沢は今にも気を失ってしまいそうな虚ろな目で、小さな体で大きな呼吸を繰り返いしている。


「ッ、ふーッ・・・ふーッ・・・」


 対して、洲川は浅い呼吸だ。ロッカーが狭い分、あまり場所を取ってしまわないよう配慮しているのかもしれない。出来るだけ身を寄せて少しでもスペースを作ろうとしている点も含めて洲川の性格の良さを感じる。見た目地雷系なのにどうしてここまで・・・。


「はぁっ・・・んっ、何を言おうとしたの? 御影君」


 真正面に位置する秋庭は腕組みした状態で俺を見下ろす。

 暑さのせいで流れ出る汗は俺の眼前に垂れ落ちる。


「・・・なんでもねえ・・・」


 なぜか俺は口ごもって俯いてしまった。

 彼女らの息遣いがやけに色っぽく見えてしまったのは夏のせいか。


 そんな中、


「「あんっ」」


 もにゅん、と。

 頭上で胸が衝突する。

 向かい合う形で立っている藍沢と洲川の胸のようだ。


「あ、ごめんなさい・・・」

「全然大丈夫だよ・・・これだけ密集してたら・・・胸が当たっちゃうのは・・・んっ、仕方ないし・・・」


 4つの惑星に視線は自然と吸い寄せられる。

 弾け終わったはずの惑星が振動をまだ蓄えて震える様子に、俺の視界はドクドクッと揺れる。


 ハッ!!! いかん!!!!


 咄嗟に視線を逸らす。その先には透き通った肌色の大木が6本。それぞれに際立った美しい造形と臀部へと繋がるその連絡橋の破壊力に、俺の視界は更に大きく歪む。


 あああ!! いかんいかん!!!!


 無。


 目を閉じた。


 衣服が擦り合う音と、吐息だけが、聞こえる。


 いや、これも何かエロいなおい!!!


「っ、なんとかして出る方法を考えねえとな・・・」

 

 変に黙って怪しまれても困るので、苦し紛れに発言する。


「御影君・・・ありがとう・・・私たちあんまり動けないし、お願いしても良いかな? ごめんね、何も手伝えなくて」


 首元の汗を拭いながら洲川が俺に言う。彼女らが動くたびに、無風のロッカー内で静かな風が生まれる。その風に乗って香る柔らかい匂いと熱気のこもった空気。否が応でも俺の感覚を刺激する。


 俺は短く「ああ」と言い切った。


 仕方ない。 

 罪悪感を感じつつも、俺は事態の深刻さに向き合うことにした。

 皆、体力の限界が近づいている。

 座っている分、多少身動きが取れる俺がやるしかない。


 四方八方に広がる魅惑の世界から、視界を遷移させる。 

 ロッカーの小さな通気口の先に、希望を求めて。

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