第65話 3対1
「ーーっふーーーっ。行ったか」
「ちょ、ちょっと御影くんモゾモゾ動かないでくれるかしらっ、んっ、くすぐったいわ」
「え、これどうなってるの!?真っ暗なんだけど、え、え? なにこれ? あれ? スカートの下になんか感触がーー」
「も、もう嫌ですぅ〜!」
阿鼻叫喚。
暗闇かつ灼熱のロッカーの中で、俺たち4人は苦しみ悶えていた。
俺の視界はほぼ暗闇ではあったが、眼前に広がる桃源郷を見るために、視力の精度を急激に高めているようだった。
み、見える、見えるぞ。
「えっ、えっ、ちょっと待ってよ、スカートの下にあるのって御影くんの腕!?」
さっきから混乱しっぱなしの洲川が股下に伸びる俺の腕を掴んだ。
「あ、ああ、それは俺の腕だ」
見上げる形で、俺は言葉を返す。
「ど、どういう体勢なのこれ!」
俺がロッカーの奥に背をつける形で座り、左右と前方を女性3人が立った状態で囲んでいる。
俺の腕は体勢を維持するために、両サイドに伸ばされており、結果として藍沢と洲川の股下に伸びる形になっているのだ。
「俺は座ってる、みんなは立ってる。そういうことだ」
「あ、御影くん座ってるんだなるほど・・・ってマジ!?!?」
狭いロッカーの中で飛び跳ねるような反応を見せる洲川。それと同時にスカートの裾を太ももに沿わせる形でビシッと抑え込んだ。結果として俺の眼前に広がる魅惑世界の領域は狭められる。
「マジだ・・・立ち上がろうにも狭すぎる」
「まったく、御影くんはだらしないわね。折角洲川さんの初陣だというのに」
すました感じで咎めてくる秋庭。元はと言えば全てこいつのせいなのにムカつくなぁ・・・
俺は暗闇の中で顔を正面に突き出した。
ムニュッ
顔面が柔らかい何かに当たる感触。
「やんっ♡ ちょ、ちょっと御影くーー」
もう一押し。
ムニュニュッ
「ーーんんっ♡ あっ♡」
「だ、大丈夫? 秋庭さん、声がなんか辛そうだけど・・・」
「だ、大丈夫よ洲川さん・・・ちょっと悪い虫がッーーい、いえ違うわっ、あっ、気分が高まってしまって、つい・・・」
「そ、そうなんだ・・・と、特殊な体質、なのかな・・・」
何故か神妙な口調で感心してしまう洲川。まあ俺としては好都合な訳だが。
「いでででで!」
「御影くん? どうかした?」
「な、なんでもねえ・・・」
後で覚えとけよ、と言わんばかりに秋庭の手が俺の頭蓋を掴んで粉砕しようとしていた。相変わらず恐ろしい女である。
「とにかく! 彼女たちはもう去ったんだから出ましょう! 藍沢さん、早く扉を開けてちょうだい!」
「わ、わかってますよ! ・・・ふんっ・・・あれ?」
ガシャン、ガシャン。
藍沢がロッカー内部から取っ手を押して開けようとしている。
ガシャン、ガシャン。
「あ、あれれ・・・」
ロッカーに訪れる束の間の沈黙
「おっかしいなぁー」
ガシャガシャン。
パキッ。
出てはいけない音。
ロッカー君の終わりを告げる、断末魔とでも言うべき音。
「あ、取っ手折れちゃいました・・・」
暗闇と灼熱の中、細く白い足の持ち主である藍沢が我々4人の死を宣告する。
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