第62話 絶対の頂点?
俺たちがロッカーの中に隠れている理由。
そんなもの「誰かから隠れている」以外にはないだろう。
ロッカーの外から話し声と足音が近づいてくるのが聞こえてる。
「――っ、来るわよ、今度こそ静かにしてて頂戴御影君」
「そうですよトウマ、変に動いて怪しまれでもしたら、この棒切りますから」
「っ、なんで俺の大事なとこ切り落とされそうになってるの!?」
クラスメイトに怪しまれるのと、俺の局所を切り落とすことを天秤にかけるな!
「良いも何も今出て行ったら確実に彼女たちに気付かれるわ。こうするしかないのよ、ほらっ――」
「えぅッ!?――ぶばッ――」
俺の頭は秋庭に抱き寄せられ、再度彼女の胸に顔を埋めさせられる形になった。大きく柔らかい胸が視界を真っ暗にした。
そして連動する形で、俺の股間に何かが当たるような感覚が再来する。
「――ぁッ・・・と、とうっ――んんむッ・・・」
最初こそ激しい抵抗の声を動きを見せていた藍沢が、ゆっくりと静かになっていく。
スーッ、スーッ
とロッカーの中の雑音が全体的に小さくなっていく、
「でさー、あのせんこーまじウケんだけど、そこで私に土下座したの。『やらせてくれー』ってさ」
「なにそれきもーい、アイツ普段真面目なくせにそんなこと言ってんの~」
それと比例するように、先ほどまで環境音でしかなかったクラスメイト達の話し声が詳細に聞こえてくるようになった。
その音は、次第に大きくなり続け、やがて
ガラララ。
教室の中に、彼女たちがやってくる。
俺たちの隠れるロッカーはこの教室の隅、教卓や黒板のある場所を前とするのなら、後ろに位置する場所にあった。
「つーかまじあちー。こんな暑い中、学校来るの嫌すぎるんだけど」
「ほんそれな~、いくらSEPの稼ぎ時って言っても、暑かったら効率悪いっての~」
「あ、でも清水の奴、この暑さでヤるのがいいとか言って朝から体育倉庫でずっと男誘ってるらしいよ」
「やばー――あ、あったあった」
「ならとっとと帰ろ~暑すぎてイライラしてきた~」
「は~い」
クラスメイトのギャルたちは何か忘れ物を取りに来ていたのだろうか。机の中を漁るような音と椅子を引く音が教室の中で響く。
もう午前中の補習は終わって、一般生徒は部活動に精を出している時間帯だ。静寂で当然。
ロッカーの中に生徒が3人隠れている方が異常である。
少しづつ遠ざかっていくクラスメイトの声。
彼女らが退室のために教室のドアを開けたその時、事件は起きる。
「――ッ、あっ――御影くぅ・・・だ、だめえっ!?」
「えっ?」
頭上から、震えるような秋庭の声が聞こえた。
「――んんんっ!!!!」
その声は確かに押し殺されたものだった。ロッカーの中で幾分か漏れ出る声ではあったが、教室の扉に手をかけたクラスメイト達にはきっと届かないレベルの声であったはずだった。
ガタン。
しかし無情にも、声ではない別の音が教室で響く。
秋庭の足が勢いよく伸びた結果、ロッカーを蹴る音が発されたのだ。
「――え、今なんか音したくね?」
「・・・ええっ・・・こわ・・・誰かいるの・・・?」
「――んっ・・・はーッ・・・はーッ・・・ご、ごめんなさい・・・」
とろけるような声で謝罪する秋庭。しかし今はその言葉に答えることすら危険である。
俺は息を飲む。
真っ暗な視界の中で。
頼む、こっちに来るな・・・
「み、見に行ってみる・・・? 多分あそこのロッカーじゃね?」
「怖いんだけど・・・」
「で、でもさ、もしかしたら中でSEXしてるだけかもよ?」
「それでも見たくはないでしょ・・・」
「先っちょだけだからってやつ・・・?」
「・・・それ全部入れちゃうから・・・」
俺の願いは儚く散り、クラスメイトの足音がこちらに近づいてくる。
目的地は俺たちが隠れているロッカーに向いていた。
――終わった。
ロッカーの中に女性二人を詰め込んで淫行させた男子高校生として紙面を飾るのか、はたまたクラスメイトの女子も交えて大乱交パーティーが始まるのか、答えは定かではない。
・・・ごめん嘘、後者は絶対あり得ない。
というか、クラスメイトって便宜上言ってるけど、この人たち俺のこと知らないだろ多分。
「じゃ、じゃあ、開けるね・・・?」
「・・・う、うん・・・」
「せーのッ――」
ロッカーの取っ手に手がかけられる。
もうだめだ・・・
うだるような暑さの中、全てを諦め、ただこの暑さからの解放を待つことにしたその時だった。
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