第61話 ロッカープレイ!?

 そんな補習日の真っただ中。


「・・・ちょ、ちょっと御影君、どこに顔埋めてるのよ!」

 

 俺は顔を合わせるどころか真っ暗な視界の中で、もがいていた。

 制服越しに感じる人肌の温度と沈み込むような柔らかい感触、密室の空気の中で充満する芳香を顔全体で感じる。

 秋庭の胸にぎゅうぎゅう詰めになっているのである。


「むぐぐぐ・・・ばんで・・・こんばごどび・・・?」


 声は、秋庭の胸の中で反響して俺の脳内に響く。蒸されるような暑さのせいで無性に気持ち悪さが増してしまう。


「あの・・・トウマの股間・・・ぶむゅ、押し付けられてるんですが・・・」


 そして意識が顔全体に向いている最中に、下腹部のあたりから藍沢のすごい嫌そうな声がする。


 ・・・。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・。


 ふむ、確かに俺の股間に何かが当たっているような感触はある。感触というか感覚というか。

 意図的ではないのだが、その対象に股間を押し付けるような形になっていることは認めざるを得ない。

 しかし、藍沢の顔面に股間を押し付けるようなことになっているかどうかは、実際に見ないことには確定しないので、保留とする。


「す、すまぶ・・・わざとじゃないんば・・・」


 が、一応謝罪はしておこう。冤罪かもしれないけど、謝罪はしておこう。

 冤罪かもしれないけどね。


「うぅっ・・・謝るくらいなこのうざったいものちょん切っても良いですか?」


「良いわけないよねえ!?」


「なんでですかぁ・・・これが一番邪魔なんですよぉ・・・ううっ・・・蒸暑いしもう嫌・・・」


「ば、ばきばッ、これどうにばばばんのば!(訳:秋庭、これどうにかならんのか)」


 俺は真っ暗な視界の中、もがもがと口を動かして秋庭に問いかける。

 元はと言えば秋庭のせいでこうなったのだ。解決策を求めるのは必然であろう。


「――っ、あっ、御影君・・・そんなっ、動かないで・・・」


「――――」


 頭上で聞こえる漏れ出るような声と甘い吐息。

 違う違う、そういうことがしたいわけじゃないから!


「・・・ッ、俺もくるじくばってきばば・・・(訳:俺も苦しくなってきたな)」


 顔が全面秋庭の胸に埋まっているせいで、呼吸がしづらい。しかもこのロッカーの中は思っていたよりも熱がこもる。夏の猛暑日に高校生三人がぎゅうぎゅう詰めに入っていい場所ではない。というか、そもそもロッカーは人が入るところではない。

 必死に顔の位置をずらそうと更にもがく。


「――やっ、御影君・・・激しッ、らめッ・・・――んんっ!」


 頭上の嬌声がそのボルテージを少し上げる。

 いやしかし、このままだと俺が死んでしまう。


「ひゃ、と、トウマ、急にそんばっ――うぐっ、押し付けないd――んんんっ」


 そしてなぜか下腹部付近の藍沢からも一層不快そうな声が聞こえてきた。

 俺は今、正面に二人の高校生を迎えていて、

 一人の胸に顔面を押し付け、もう一人の顔面に股間を押し付けているのである。

 猛暑日の、ロッカーの中で。


 ・・・。


「いやこうはならんだろッ!!!!!!!!」


 何とか一瞬だけ秋庭の胸から解放された俺は、小声の中でも最大の音量で叫ぶ。


「なってるじゃない!」

「なってるんだから仕方ないです!」


「ごめんて!!!!!!!!」


 猛烈な抗議に俺は即謝罪した。

 

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