第55話 Hypnosis 2
彼の言葉が脳に直接語りかけてくる。
「君は確かにこの学校に居れば評価されるだろう。真面目であれば、勤勉でさえあればそれが正義で絶対だ。・・・でもそれは"この学校"で、という限定的なモノ。視野が狭いな・・・どうしていつまでも評価されることに甘んじているのか僕には理解できないね」
「評価される側であるということは、僕に言わせれば敗北と一緒さ」
「その立場であるうちは、真の勝利なんて掴めやしない。誰かのルールに従って、誰かの評価基準に則った得点に、何の意味があるのか」
「実際、評価される側の人間が大多数でいるからこそ、評価する人間の意義が生まれている。要は光と影のような関係なのだろう。だからきっと、キミたちのような影も必要だ」
「でも、自覚して陰でいることと、自分が陰でいることにすら気付けない愚かな人間とでは埋めがたい差があるのも事実」
そこで一息置いてから、彼は続ける。
君は、と。
「君は――ただ勉強が出来るだけのことで、一体何が出来るんだい?」
何が作れるんだ?
何が生み出せるんだ?
何が社会に貢献するんだ?
何が、誰が、救えるんだ?
何も、できやしないだろう。
今しがたそうだったように。
真面目なだけでは、何も救えない。
だってそうさ。
君はただ良い評価をされることに囚われて、その先にあるビジョンが見えていないから。
何かを果たすための学問が、自分を評価してもらうための記憶道具に成り下がってしまっている。
それは学問の本質とは程遠い。テストで良い点を取るために学問があるのではない。
そんなしがらみのせいで、真に評価されるべき人が評価されないのが、現状だ。
だから、僕はその評価基準そのものを壊しに来たのさ。
誰もが当たり前だと思っているその評価基準を消し去って、価値観を壊して、その先に一体何が生まれるのか、見てみたくなったんだ。
きっと多くは新たな評価基準の元で奔走するだろう。それこそ「勉強」が「性交」に入れ替わっただけの、愚かなままでいる人間が大多数だろう。
でも。
でも気付くはずさ。
自分が、自分たちが、価値観の奴隷に過ぎないということに。
そしてその価値観というものが、如何に脆く、揺れ動きやすいものであるかという事実に。
そうだね、いい機会だ。君には今回特別に、他の人とは違う呪いをかけてあげるよ。抑圧されている人間ほど、試すにはちょうど良い。
ん? どうしんたんだいそんな怯えた顔をして。
自分の存在意義を消されるのが怖いかい? 辛いかい?
はは、大丈夫。君なら順応できる。
君はいつも、そうやってきたんだろ?
与えられたものに、素直に適応してきたんだろう?
今回も、それでいい。
それがきっと良いことで、正しいことなのだから。
・・・そろそろ時間かな。
じゃあおやすみだ、藍沢さん。
期待通りに動いてくれることを楽しみにしているよ――――――――――――
「――ぁ・・・月山・・・さん・・・」
彼の言葉が終わりを告げると共に、私の意識は遠ざかっていった。
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