第51話 Crack

『【制度名】

Study Evaluation Poins(学習評価ポイント)


【施行詳細】

・授業態度やテストの成績など、「学業」に関する評定を数値化し、ポイントとして配布する

・評定はリアルタイムで行われ、配布するポイントは生徒手帳のICチップに電子マネーとして振り込まれる。なお、ポイントは島内全ての施設で1ポイント=1円のレートで使用できる

・本制度の運用と同時に、SEPを用いたあらゆる経済活動を認める』

 

 昇降口にデカデカと掲示された張り紙を見ながら、私はうーんと首を捻っていた。


「なんでこんなことするの、って感じだよね」

 

 私の気持ちを代弁するかのように、隣に居た萌ちゃんが呟いた。

 

「うん・・・進学校なのはわかるけど、って感じだね」


 学業の成果が数値化され、ポイントとして配布される。

 配布されたポイントは実質的にお金と一緒で、買い物や遊びに使うことが出来る。それだけ聞けば、学業へのモチベーションは上がるし、確かに意味のある施策なのかもしれない。


 でも、高校生の本分は学業だけではないんじゃないか、と思う気持ちが私にはあった。

 隣でふてくされている親友と、不真面目に過ごす時間だって、きっと高校生に必要な時間であるはずなのだ。

 

「ま、お金なくても寮で生活する分には困らないし、私は勉強なんてしないけど


 ――唯華ちゃんはどうすんの?」


「うーん、私も・・・――」


 親友がそういうなら、私も遊び惚けてしまおう。学業なんてかなぐりすてて、不真面目を真面目に精一杯楽しもう。


 心ではそう思っていたし、そう言い切るつもりだった。


「・・・・・・・」


「・・・どした? 唯華ちゃん」


 けれど、言葉はそこで止まってしまった。

 長年染みついた私の悪い部分は、こういう時に限って足を引っ張る。


 不真面目になってしまえと思う癖に、

 不真面目であることを楽しむ癖に、

 真面目さを嫌悪する癖に、


 心の奥底で、真面目な自分を切り捨てられない。

 SEP制度に従って、学業に励もうする意識の芽生えを、私は感じていた。


「――うーん、私はひとまず、様子見って感じかなあ」

 

 そうして、煮え切らない答えを出した。

 真面目な私が得意な、決定の先延ばし。

 何かを選ぶことが出来ない、私の悪い癖。


「・・・そか~」


 萌ちゃんはそれ以上何も聞いてこなかった。


「――寂しくなるね」


 そんな言葉を呟いたのが聞こえたけれど、私は聞かなかったことにした。


 

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