第43話 Align

 狂喜乱舞のハメ撮りAVを大画面大音量で鑑賞し終えた俺は一息ついた。


「・・・ふぅ」


「抜き終わったの?」


「そもそも抜いてねえよ!!!」


 いかにも一発抜いた後みたいな情けない声を出してしまったが、誰が学校で自慰をなどするだろうか。


「視聴覚室は防音ばっちりなのだから、心配しなくても大丈夫よ?」


「・・・心配なのはお前の頭だ」


「ふふ、残念だけど私はまだマシな方よ。こんな映像を見て欲情しない生徒がこの学校にどれだけ居ると思っているの?」


 言って机に座る秋庭。椅子に座っている俺の目線は、嫌でも秋庭のスカートから太もも付近に集約させられる。


 ビーチでも思ったが、秋庭は随分着やせするタイプなのだろう。衣服で隠れていない部位をよく見ればその片鱗が垣間見える。


「あら、もしかして今私のことを厭らしい眼で見てる?」


 こいつ、俺の心が読めるのかッ・・・!!!


「目を見れば分かるわ。眼は下の口ほどにモノをいう」


「・・・いや一瞬惜しいと思ったけど、よく考えたら全然ちげえ!」

 

 薄い本とかで使われそうなシャレを現役JKが言ってんじゃねえよ!

 秋庭は小さく笑う。その反動で俺の視界に広がる彼女の太ももとスカートの領域が揺れ動き、せめぎ合う。

 

「卑猥な映像を見ても動じなかったのに、もしかして御影くんはこっちの方が興奮するのかしら?」


「うるせえ」


 特に反論のしようがないので投げやりに返してやった。

 このままだと話がそれてしまいそうなので、無理やり本題に戻す。


「――で、この映像は結局何だったんだよ」


 俺が散々と(と言っても15分くらいだが)見せられた卑猥な映像。藍沢唯華が複数人の男子生徒と乱れ狂う狂気的な動画。

 合成とか編集で何とかなるレベルではないくらいに生々しい映像。

 俺の知っている藍沢唯華が、確かに男たちと交わっている証拠だった。


「見てもらったのはの一部よ」


「乱交倶楽部? 定期発行映像? 二つ以上の意味不明な語句をぶち込むな、訳わかんぞ」


「聞けば大体想像がつくでしょう? 部活動として乱交するのが乱交俱楽部。そしてその活動記録が定期発行映像。さっきのは昨年12月に裏サイトにあげられた活動記録よ」


「・・・なにそれ・・・えっぐう・・・」

 

 もはや感嘆の声しか出ない。

 常識で考えて、乱交することが部活動なのもおかしいし、その活動記録をネットにあげるのも全くもって意味不明理解不能だ。


 それらの不可解さを仮に「」という簡単な単語で一掃したとしてに、まだ疑問は残る。


「・・・昨年12月って、SEPじゃないか?」


 俺たちがSEPについて知らされたのはつい数週間前。それまでの間、この学校の生徒は皆、初心な学生諸君であったはずだ。乱交俱楽部などと言う部活が存在すること自体がおかしい。

 

 俺の言葉に秋庭はうんうんと頷く。


「さすが、鋭いわね」


 少し考えれば分かることを褒められてもな・・・


SEP稿。そこまで分かっているのなら、彼女のことも分かるんじゃない?」


「彼女のこと・・・? 藍沢か? ―――――――あ」


 そこまで言われてハッとする。

 SEPの発足時期との関係性よりも、不可解な点。


「藍沢唯華は俺たちと同じ、1年生・・・」


「そう、彼女は私たちと同じ1年生」


 そして、先ほど見せられた映像の記録は昨年12月のもの。撮影場所も間違いなく俺たちが使用している教室と同じだ。


 その上で。


 この島で教育施設と呼べるものは、この高校しか存在しない。

 いわば「島全体が教育機関」としての役割を持っている。基本的に住民など存在しない。生徒と学校関係者、施設維持・整備者というステータスの人間しかいないはずだ。


 与えられた材料とこの映像が示す意味不明な答え。

 

 俺は、藍沢と初めて会った時のことを思い出す。暗い廊下で出会ったあの時。





 ――私は熟練の高校1年生です




 まさか。


 まさか、とは思いつつ。


 俺は何度その「まさか」に裏切られてきたのだろうか。


「ん~っ、そろそろ答えは導けそうかしら?」


 見上げると、背伸びをしながらにやにやと笑みを浮かべる秋庭の顔があった。チラリとへそが見えたせいで、不意にドキリとさせられる。

 実に腹立たしい。


「ではここでもう一度。この学校ではなんでも手に入る。SEPさえあれば、ね」


 理解していたはずのルール。


 その認識は改める必要がありそうだ。


 やはりこの島で、俺の常識は通用しない。

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