第42話 Visual
"視聴覚室"という場所は、一体何のために用意された部屋なのかと常々思う。
名前の響きは数ある教室名の中でもトップクラスにかっこいいというのに、授業で使う機会がほとんど無いせいで、実態のつかめない謎の部屋感が拭えない。
現にこうして視聴覚室にやってきても、俺は椅子に座ったままずーっとそわそわしていた。
部屋の前方には壁と一体化したホワイトボードと。天井にはどでかいプロジェクターが置いてあるのが見える。
そして、教卓っぽい机の前で腕組みをする秋庭。
まるで今から授業でも始めるかのような態度だ。
秋庭が教師で俺が生徒。二人きりの補修。
・・・いや、考えただけでも地獄だな。何されるか分かったもんじゃない。
「御影くん、どうしてそんな不満そうな顔をしているのかしら? まだ私は何も言ってないのだけど」
「その言い方だと、"今から言いますよ"って感じだな」
「まあ、どの道あなたにとっては良い話ではないしね」
「・・・そんな気はしてた」
秋庭は教卓の中からリモコンを取り出して、天井に向けて突き出す。
しばらくして、天井のプロジェクターが少しうるさい動作音と共に、起動する。
「御影くん、AVは好き?」
「いや唐突ッ!!!!!!!!!!!! 」
不意打ちに俺は椅子から転げ落ちそうになってしまった。
余りにも自然に言うもんだから図書館とかのAVコーナーのことを言ってるのかと思ったぜ。
「あ、ごめんなさい、この場合は健全じゃない方のAVよ」
「絶妙に分かりにくい言い方をするな。見方を変えればどっちも健全でどっちも不健全だ」
大人なAVもある意味では健全だろ!
「細かいわね・・・男女がセックスする映像のことよ」
逡巡する様子もなく淡々と言い切りやがった。
「・・・あのさ、お前って羞恥とか、ねえのか・・・?」
全く恥じらいもなくそんな卑猥な語句を口にするのはどうかと思うぜ。
そんな俺の指摘に、秋庭は自らの髪をさらりと払いながら反論する。
「羞恥とは、"自分の異常さを客観視する"ことで感じる情。この島内で私は異常かしら? ――いえ違う、異常なのはあなたよ」
「おい、反語にかこつけて俺を貶すな」
「これからそんな異常者を強制するためのビデオを放映するわ。心してみなさい」
「誰が異常者じゃ・・・」
俺のボヤキを一切意に介すことなく、秋庭はリモコンで操作を続けた。
しばらくすると、教卓の前に立つ秋庭諸共、ホワイトボードに大きな無地の映像が映し出される。
「なんだよこの映像」
「黙ってみてなさい、じき分かるわ」
最初は眩しいだけで何が映し出されているのか分からなかった。
光に目が慣れてくると、徐々に映し出された映像の全体図が見えてくる。
同時にホワイトボード横に置かれていたバカでかいスピーカーから、音声が流れてくる。映像とリンクした臨場感のある音。
なるほど、視聴覚室。
などと感動している間もなかった。
「・・・御影くん、気を確かにね」
視聴覚室のカーテンを閉めて回りながら、秋庭はそう言った。
外部からの光が徐々に遮断され、俺の意識は自然と映像に向かっていく。
「―――――――ぁん、ああぁぁああぁんッ」
嬌声。
この学校で嫌というほど聞いてきた、獣共の鳴き声。
乱れ狂う全裸の男女の映像。
自分が知っている教室。
そして――――――――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
彼女が、淫らな笑みを浮かべたまま、腰を激しく振っていた。
いつの間にか背後に来ていた秋庭が俺の耳元で囁く。
「――藍沢唯華という人間は、貴方が思っているような人間ではないわ」
藍沢唯華、今俺が見ている映像に映っている彼女のこと。
「彼女は風紀委員でありながら、最もこの島の風紀を乱していると言っても過言ではない。あなたの憶測通り"学校側"の人間よ」
「風紀委員副会長兼、乱交倶楽部会長、残念だけどあなたの手には負えないでしょうね」
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
乱交倶楽部ってなに? 笑うとこ?
めまぐるしく体位を変えながら乱れ続ける藍沢の卑猥な姿を見て、俺は脳みそがぐちゃぐちゃになっていくのを感じた。
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