第32話 Truth:2
「SEPって教師は持ってるものなんですか?」
性的接触による評価点、というものがこの島の唯一の資本であるのなら、教員たちはそれらのポイントを所持しているのか、というのは気になる。
「面白い質問だな。残念だが、教員にはSEPを保有する資格も権限もないからな。生徒とは違ってポイントを稼ぐことはない。まあその分通常の貨幣が給与として入ってくるから生活には困らんよ」
なるほど、まあそりゃ「評価点」というくらいなのだから、教員が獲得できるというのも聊かおかしな話である。
「じゃあ、生徒が教員と性的接触した場合は、どうなるんですかね?」
俺の抑揚のない言葉に、白井先生はそれまで左右に小さく揺れていた体の動きをピタリと止めた。凛々しい睫毛を携える瞳も少しだけ見開かれているように見える
「――ど、どういう意味だ?」
「どういう意味も何も、そのまんまの意味ですよ」
性的接触による評価点は、性的接触をした生徒に付与されるポイントである。
そして性的接触はこの学校の敷地内では無条件に合法とされる(先日のビーチも一応この学校の保有物のため敷地内といえるのだろう)
であれば、だ。
「生徒と教員が性的接触を行うこと自体は問題ないんですよね?」
俺の言葉に白井先生は息を飲む。そして、開いていた胸元を片手で塞ぐ。
「――み、御影、先生をからかうのは良くないぞ、大体私はもう30手前だし、そろそろ結婚を見据えて――」
「問題、無いんですよね?」
強く、それでいて平坦に、俺は問い正す。
「そ、それはだな・・・えと、・・・えーと・・・」
いつもは冷静沈着な白井先生が珍しくどぎまぎしていた。
俺は右手を白井先生の肩にゆっくりと近づける
「ひゃあぅ!」
脳天から出たかのような甲高い声が白井先生から発される。
あまりにも普段の様子とは違うその声に、他の先生たちの視線が一気に集中する。
「まだなんもしてないっすよ」
「ま、まだとか・・・先生をからかうもんじゃないぞ! 御影!」
「じゃあ、本気なら許されるんすよね? 性的接触も」
「――っ・・・本気・・・なのか」
「ま、仮定の話ですが・・・って、先生?」
白井先生は先ほどまでの不遜な態度を急に改め、突然縮こまる。
組んでいたスラッとした足今では就活生のごとく閉じられ、両の握りこぶしが膝上に置かれている。
「えーと、先生?」
先生は顔を赤らめたまま、上目遣いで俺を見上げた。
「――せ、先生で、良ければ・・・いつでも私は生徒の願いには真剣に答えるつもりだ・・・っ」
なんだか予想外の展開である。
俺が黙っていると、白井先生は俺の腰を引っ張って無理やり正面に立たせた。
「――ま、まずは・・・ちゅーからだよな・・・い、いいいいいぞ。いつ来ても・・・」
白井先生は俺を見上げたまま、瞳を閉じる。緊張しているのか、睫毛が小刻みに震えていた。
「あの、先生、すみません、そういう意図ではなかったと言いますか・・・」
「いいんだ、御影・・・先生はお前のためなら・・・でぃーぷなやつでも、いいぞ」
違う、そうじゃない。
周りの教師たちの視線もそこそこ熱を持ったものになりつつある。
めっちゃいやだ。テーマパークで無理やりプロポーズさせられるくらい嫌だ。
「・・・まだ、か?」
据え膳食わぬは男の恥、という言葉はあるが、これは据え膳どころか俺が食われそうである。白井先生のぷるっぷるの唇が俺を誘惑する。喰われてしまうっ!!!
「――先生、俺――」
「失礼します、白井先生、居ますか?」
職員室の入り口扉がガラガラと開けられ、暫しの沈黙が走る。
声の方に目を遣ると、山のようになったノートを両手で抱えている女子生徒が立っていた。
その顔に、背丈に、俺は見覚えがあった。暗闇だったと言えど、はっきりとその顔は覚えている。
「あ・・・藍沢さん・・・」
「あなたは・・・昨夜の・・・というか、何してるんですか・・・?」
生徒の腰をガッツリ掴んでキスをせがむ女教師。
女教師にキスをせがまれている男子生徒。
果たしてどちらが有罪なのか、彼女の目に俺は一体どのように見えているのだろうか。
正解は、神のみぞ知る。
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