第23話 XXX

「ほら、もっと吸って」


 温かい裸体が全身に押し付けられる。


 そして、抱き『締め』られる。


 およそ女性の力とは思えないほどの強烈な力。

 前からは柔らかな人肌が、後ろには俺を縛り付ける大きな柱。


 圧死。


「――ん、もうちょいかな、よいしょっと」


 ぐぶっ、という声も出ない。

 ガッツリキマッている。封殺。


 悶える俺の脳天をポンポンとたたきながら、葛西はとろけるような声を出す。


「あぁ・・・たまんない――もっと、もっと吐いて、吸って。たくさんたくさんたくさん吸うの。肺の空気なんて全て掻きだして、体中の酸素という酸素を吐き出すの」


「――――――――が、――――おい、――い、――息がッ」


「なにどうしたの? 私のおっぱい、やわらかいでしょ? 幸せでしょ? あんな女のこと忘れるくらい幸せだよね? 君はちゃんと私のこと見てくれるもん。今は私のことだけ考えてくれてるよね?」


 「思考」という人間らしい行為を行えるほどの酸素がない。

 苦しい。体が押しつぶされ、呼吸も出来ない。

 かすかに吸い込んだ空気からは、気分が悪くなるような甘ったるい香りがした。


「そだ・・・私も、君を感じたいな」


「――――――――――――――ぁ?」


 もはや半分気を失いつつある俺などお構いなく、ヤバい女は俺の体をべたべたと触りだした。首から、わき腹から、太ももから全身を撫でるように、時折痛いくらいにつねりながら一周する。


 そして、物足りなそうなトーンで


「私だけ裸なんておかしな話だし、ね」


 などと言った。


 『お前が勝手に脱いだんじゃい』、といつもなら華麗なツッコミの一つでもお見舞いしてやるのだが、今の俺にはもう何もできない。

 身ぐるみを剥され、彼女の圧に蹂躙され、したいようにやられてやることしかできない。

 俺自身が、俺の視界から遠ざかっていく。


「いいカラダ・・・んぁー♡」


 ぺろり


「――――――!?」


 さまよう意識の中、明らかな異常を感知する。

 身の毛のよだつ感覚。


 ぺろり


「んふふっ、おいし」


 舐められている、俺の首筋が。


「大好き。だーいすき。絶対離さないから。君が私のモノになるまでずっと、ずーっと、離さない。だから・・・だから、一緒にいこ?」


「――――――――――ッ」


 声も出ず、体も動かず。

 ただ意識だけが朦朧としていく。


 尋常ではない拍動が、視界を揺らす。


 目の前にあるソレに興奮するかのように、歓喜するかのように、俺の中で沸々と湧き上がってくる何かを認めざるを得ない。


「ちゃーんと、見ててね♡」


 湿った指を自ら口に含んで舐め回す葛西。


 そうして、俺は彼女と――――――――――――――――――――――――――

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